社会福祉法人風土記<7>三愛荘 下 初の重度

2015年1113 福祉新聞編集部
現在の三愛荘

 三愛荘の源流は、結核患者だった高橋薫が創立した結核アフターケア施設だった。1961(昭和36)年には「精神薄弱者援護施設」として再スタートしたが、運営が軌道に乗る前の1966(昭和41)年元日、高橋薫が享年50歳で病没した。

 

 女性ながら職員を怒鳴りあげる強い個性と、キリスト教を支柱にした人道主義と使命感で、ぐいぐい組織を引っ張って来た草創期に幕が下りた。

 

 次の成長・拡大期を引っ張っていったのは、栃木県小山市の教会で伝道師をしていた岡崎清市(1931~2002)・喜子夫妻だった。高橋からの再三の要請に、1962(昭和37)年に三愛荘に着任。高橋の死後、運営責任者の立場を継いだ岡崎は常務理事になり、施設運営費捻出のため敷地内にあった軽石を掘り出して販売する事業が原因で累積していた借金を数年で返済するなど、経営立て直しに尽力した。

 

 事業で特筆すべきは、全国に先駆けて1967(昭和42)年、重度の知的障害者保護棟を開設したことだ。聖書の中にある「救いの泉」にちなんで「ベテスダ寮」と名付けられた。厚生省が重度収容棟の施設基準を発表したのは翌年だった。

 

 定員は重度の成人女性20人。200人近い希望者が家族や施設職員に連れられて面接に来た。言語障害、肢体不自由、虚弱体質、異常興奮、多動性異常行動など一人ひとり障害の内容は異なる。重度で緊急な人を優先して入寮者を決めた。

 

 現場では何が起きていたのか。「夫は経営を、私は現場を担当しました」と回想するのは岡崎常務理事の妻・喜子さん(84)だ。

 

 若い時、戦後の混血孤児の養護施設「エリザベス・サンダースホーム」で働いた喜子さんは、三愛荘の重度棟開設と同時に就職し、36歳から72歳まで現場三昧の日々を送った。

 

 「当初は、そりゃ大変でした。施設は水も満足に出ないし、洗濯機もないから風呂場で毎日洗う。トイレも水洗がなくて“ぼっとん便所”。昼夜5人の職員でやりくりした。歩けない人をリヤカーに乗せて散歩させたり、言葉が出ない人には動作を付けてリズム遊びをしたら喜んでくれた。私は縫うのが得意だったから、必要なものはすぐに縫って作った。毎日大変だったけど、工夫しながらやって楽しかった。わが三愛荘人生に悔いなし、ね」

 

 昭和から平成に、バブル経済崩壊の後にデフレ不景気… と社会が大転回するにつれ、福祉政策も大きな曲がり角を迎える。

 

 精神薄弱者から知的障害者へと呼称も変わり、大規模収容から小規模支援へと、きめの細かいサービスが求められるようになった。社会との日ごろからの交わりを重視して、グループホームや地域交流ホームが増え、ボランティア活動も活発になってきた。

 

初の〝生え抜き〟リーダー

 

 1998(平成10)年岡崎常務理事から阿部健二常務理事(60)に重職がバトンタッチされた。改革の時期を任された阿部常務理事は、1979(昭和54)年、高崎経済大学卒業と同時に三愛荘に就職した初の“生え抜き”リーダーだ。学生時代のボランティア経験の延長線で使命感を持ってこの仕事に向かってきた。

 

 「とはいえ、初日におしめの交換ができず、入浴の仕方もわからなかった。障害の重さにびっくりした」

 

 こんな現場体験の積み重ねから、次々と改革案も出てくる。2003(平成15)年には施設の小規模化を図り、これまでの三愛荘を「かおる園」「清泉園」「さくら園」へ三分割して、それぞれに施設長を配置した。名称も「社会福祉法人愛護会」から「社会福祉法人三愛荘」に変更した。

 

 介護保険が導入され、グローバル化による人権・契約意識が進み、高齢化・認知症・自閉症・発達障害が増えるなど知的障害者の支援体制も大きな転換点を迎えている。

 

個別支援計画を作成

 

 「昔は職員が指導して引っ張っていったが、今は本人の足りない部分を支援するのが基本。個々人に合った個別支援計画も作る。また地域の福祉の拠点作りも大切。圏域で共同してNPOを作って相談支援事業もしています」

 

 国際ワークショップの若者による夏季奉仕活動の受け入れも長く続いている。昨年は台湾、フィリピン、韓国、タイ、マレーシア、カンボジア、インドネシアの若者と交流があった。

 

 「情報交換して、母国で役立ったと聞くとうれしい。もちろん、双方にメリットがあります」

 

 来年創立55年を迎える三愛荘は4月から初の児童発達支援事業を行う。就学前の児童20人に保育園のようなサービスを、小・中・高校生10人には放課後デイサービスを。子どもから大人、高齢者まで、切れ目のないサービスを三愛荘は模索している。

 【網谷隆司郎】

 

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