社会福祉法人風土記<34> 常盤会 上 夫婦で創り上げた児童福祉教育

2018年0308 福祉新聞編集部
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県立施設を移築して開園した明星学園

 「知的障害児のために専門の施設を」――。その施設は夫婦が二人三脚で創り上げた。鹿児島市中心部から北西に10キロほど離れた郊外の犬迫地区にある社会福祉法人「常盤会」=久木元司理事長(53)=の明星学園だ。犬が迷い込んだら出られなくなるほど山が深く、谷が複雑であることから名前がついた場所にある。現理事長の父で、初代の弘理事長(1921―2007)が、1966(昭和41)年に開園した。

 

 弘初代理事長は海軍省に勤めていたという父源成さん、母アイさんの三男として、東京都中央区で生まれた。その後は神戸市で育ち、大学卒業後は兵役に就き、戦後、両親の郷里である鹿児島に移り住んだ。

 

 鹿児島に移住した当初は県庁に勤務。入庁して間もなくは、県知事の秘書として、県内をいろいろ回った。

 

 「軍隊では非常につらい体験をしたことで、何か人のために、役に立つ仕事をしたいという気持ちがあったのだと思います」(久木元司理事長)。

 

 県庁を退職して、県社会福祉協議会で働いた。この間、いまは廃園になった県立の児童養護施設「鹿児島養育院」の副施設長兼児童指導員も務めた。

 

 障害児者福祉の道に飛び込んだのは43歳の時だった。養育院に勤めていた当時、軽度の知的障害児が何人かいて、その子どもたちが施設でも学校でも孤立し、いじめを受けている現状を憂え、障害児の保護療育を目的にした施設「明星学園」の創立を志した。

 

 この施設創設に大きな力になったのが小学校の教員をしていたテル子夫人(1927―2017)だ。鹿児島高等女学校専科卒で、小学校の教員経験があるだけに、夫である弘初代理事長のよき理解者でもあった。夫の心情を理解し、障害児の保護療育を目的にした施設の開設に協力的で、熱心に取り組んだ。「児童福祉教育は夫婦の夢でもあったようです」(司理事長)。

 

 

初代理事長の久木元弘氏とテル子夫人

 

 開設にあたっては、自宅以外に持っていた鹿児島市内の土地、建物を売却して犬迫の土地約1万3800平方メートルを買った。当時は障害のある子どもたちに対する地域住民の抵抗もあり、民家の少ない犬迫地区を選んだようだ。

 

 山の斜面を切り開き、土地を造成。建設資材の乏しい時代で、県立の施設改築に伴う古い建物を買い取り、移築して開設した。当初の定員は50人。施設内には4人部屋が並び、小さな子どもから18歳までが生活していた。まだ、特別支援学校(養護学校)がなかった時代、生活も教育も施設で対応していた。

 

 市街地に近い割には緑に囲まれた自然豊かな地域だが、細かな軽石と火山灰が堆積した標高100~190メートルの鹿児島特有のシラス台地で、雨にはもろく、大雨が降ると斜面が崩れる。理事長をはじめ、職員が総出で、土留めの突貫工事をしたこともあったという。

 

 苦労して開園にこぎつけた当時のこんなエピソードもある。施設ができた時、近所の子どもたちは知的障害の理解に乏しく、「病気がうつる」と言って、口を手で押さえ、施設の前を走り去って行くという誤解や偏見を受けた。弘初代理事長は「これではいけない」と地元の小中学校と交流を図るべく奔走した。

 

 徐々に地域や学校の理解が深まり、交流が進んだ。学校との交流事業で明星学園に来てくれた小学校の女児から「どんな勉強をすれば、ここで働けるのですか」と聞かれたという。司理事長は「父は晩年に、『あの時、ようやく地域の人たちにも受け入れられた気がする』と言っていたことが、今でも記憶に残っています」と話してくれた。学園創設時の苦労は並大抵ではなかったようだ。

 

 明星学園が軌道に乗ると、通園施設の要望も強いことが分かり、1980(昭和55)年に県内初の知的障害児通園施設「ひこばえ学園」(現・発達支援センターひこばえ)を開設した。さらに1991(平成3)年には入所更生施設「明星学園成人部」(現・障害者支援施設「ディライト」)も開設。早期療育が必要な幼児から大人までの生活支援施設を同一敷地に整備、知的障害児者の一貫支援を行うまでになった。

 

 陰で支えてきたテル子夫人も「ひこばえ学園」の施設長として、就学前の幼児教育にも携わった。「母は子どもが大好きで、子どもたちからも慕われ、毎年春の卒業時期には巣立っていった子どもたちがよく家族連れで施設を訪れ、成長した姿を見せに来ていました」と司理事長は語る。

 

【澤 晴夫】

 

 

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