社会福祉法人風土記〈36〉済昭園 上 仏教福祉の原点、光桂寺

2018年0517 福祉新聞編集部
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光桂寺の山門

 有明海の初夏の風物詩「鹿島ガタリンピック」。佐賀県鹿島市の干潟で今年も5月に行われる。干潟のあるじ・ムツゴロウ顔負けの泥んこ大運動会だ。全身を真っ黒にし、遠浅の浜を走り、泳ぐ。海外の参加者も近年は目立つ。

 

 その海辺から北西へ14~15キロほど。同県嬉野市を貫く塩田川沿いに社会福祉法人「済昭園」の施設群がある。広い敷地の一角には同園の仏教福祉の原点となった「光桂寺」が清楚なたたずまいを見せる。1708(宝永5)年に開山した臨済宗妙心寺派の禅寺だ。

 

 開いたのは江戸時代・蓮池藩の初代藩主・鍋島直澄の五女・楽姫、後の昭圭禅尼(1654~1702)。直澄は肥前鍋島本藩(いまの佐賀市)を興した勝茂(外様大名)の五男である。晩年を蓮池藩の主領地であるここで過ごした。福岡と長崎を結んで栄えた長崎街道25宿の一つだ。

 

 楽姫は江戸へ輿入れしたが19歳のとき夫を失い、京都・妙心寺へ入った。禅尼となり父と夫の菩提ぼだいを弔うために実家へ戻り、「清涼庵」を建てた。後に、庵は悲願の寺院になった。

 

 それから220年の時が流れ、話は1928(昭和3)年の光桂寺(当時・藤津郡五町田村)へ。生活保護法の前身「救護法」が翌29年に公布されたものの、貧しい人を助けるにほぼ同情しかない時代であった。 

 

  ある日、一宿一飯を求め、貧しい男が光桂寺の山門をくぐった。第13世住職の小佐々祖伝尼(1872~1948)は慈悲の心で迎えた。「食べ物を与えるのは簡単なこと。それだけではこの人のためになりません。働かず食べ物をもらうのは仏の教えに反します」。田畑を耕させたのだ。禅の教え「一いち日じつ不なさ作ざれば、一いち日じつ不くら食わず」(一日人のために尽くさないと、食べものものどを通らない)である。

 

 

小佐々祖伝尼

   
 祖伝尼の名は津田ツデ。長崎県北松浦郡小佐々村に生まれた。村内の寺の住職・義詮和尚(1860~1916)と結ばれ、4人の子を授かっている。第11世住職として光桂寺へ移った和尚は2年ほどして亡くなり、28歳で病没した第12世(長男)をはさみ、禅尼の祖伝が第13世住職の座にあった。

 

 寺を頼る人はどんどん増えていく。障害者や孤児も。計20人ほどになったらしい。当時としては大金の2千数百円を借金し、五町田村の婦人会を母体に養老院(定員15人)を建てた。苦しむ人を昭(あき)らかに照らして済(すく)うーー「済昭園」の誕生であった。
 

義詮和尚

 

 「ご本尊の納まる本堂につながる庫裏に居室や食堂、台所を配し、子どもと老人が並んで、だご汁などを食べたそうですよ」
 法人4代目の小佐々良徹理事長(69)と、いま第17世住職として父を継いで寺を守る長男・徹正さん(41)=養護老人ホームやケアハウスの施設長兼務=がそう言いながら境内を案内してくれた。800人のオーディションから郷土出身の作家・下村湖人原作の東宝映画『次郎物語』(1987年)に兄役で選ばれ、出演したことがある。

 

 鍋島藩ゆかりの、山や田畑が広がる寺領内の離れでも寝起きしたという。食料の十分ない時代、職員、お年寄り、子どもが共に野に立ち、支え合う独自の文化を築いた全国でも珍しい実践として高く評価する研究者もいる。

 

 法人が社会福祉事業へ第一歩を踏み出した昭和3年は、関東軍による張作霖爆死事件(中国・満州、6月)や昭和天皇の即位礼(11月)など多事であった。次第に戦時色を強め、戦地へ送るため内地の衣食は細っていく。助け合いの心で農業や婦人会活動にまい進する傍ら、祖伝尼は子どもらと共に托鉢もいとわなかった。

 

  こんなエピソードがある。三男・徹宗(1911~1963)が福岡県下の僧堂での厳しい修行に音を上げた。「最後までやりとげよ」。自ら切り落とした左手薬指を、血の手紙に付けて送っている(1938年)。禅尼の胸像の中に今も残っているが、励ましのかいあって最後までやり遂げ、ビルマ戦線から生還した徹宗は第14世住職になった。

 

 もう一つ。戦争の激化した1942(昭和17)年、大砲や鉄砲の弾にあてる金属回収令が発動された。軍部の寺鐘供出命令を禅尼は3度はねつけている。「平和を守る鐘で人を殺す兵器は造れない」と。非国民扱いされ、乗り合いバスにも乗れなかったという。梵ぼん鐘しょうはいまも「苦しみを逃れよ」と鳴り響く。

 

 色白の優しい笑顔からは想像もつかない、シンの強い女性であった。

 

【横田一】

 

 

 

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