社会福祉法人風土記<39>岩手愛児会 中 情短施設つくり健康回復へ

2018年0823 福祉新聞編集部
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旧・岩手県種市町の海岸で遊ぶ子どもと指導員(1993年)

 「社会福祉法人という団体も社会福祉ということも、全くといって知らなかった」。石川敬治郎医師(1932~2005)は岩手医大から虚弱児施設「みちのく・みどり学園」の第3代園長へ移った当時を遺稿集『どの子もすこやかに』(2008年)でこうふり返っている。岩手愛児会が社会福祉法人へ衣替えしたのは園長就任の翌月、1967年6月だ。

 

 

石川敬治郎医師

 

 ところが、貧弱な設備など実情を理解するにつれ、腹立ちにも似た感情が芽生えていったようだ。みどり学園を描いた『鐘を鳴らして旅立て』(及川和男著、1989年)の中で次のように述べている。

 

 「貧困、結核感染、一家全滅や離散、そういう悲惨な条件のもとで、学校に行けない子がおびただしくいたんです。…法律を変えてでも、という〔創設者の〕気迫とエネルギーの奥に、何もせずに手をこまねいている者への怒りがあったと思うんです」

 

  戦後〝日本のチベット〟と呼ばれた岩手県。医学生のころ、『ものいわぬ農民』(岩波新書、1958年)を書いた県国保連の大牟羅良さん(故人)の農村調査に同行している。医局時代は「アッパ(母ちゃん)とも言えぬうちに、紅い唇を閉ざしていく子らをなくそう」(遺稿集)と、かつてお年寄りと赤ちゃんの医療費を無料化(61年)した奥羽山脈のふもと沢内村(当時は深沢晟雄村長、現・西和賀町)で乳児検診を担った。年間の乳児死亡ゼロを達成している(62年)。

 

 「怒りをもって対処せよ」の言葉は学園職員にも常々口にしていたという。墓石代わりの〝うずもれた石の中から〟上がる赤子たちの声を感じたのかもしれない。

 

 新園長は猛烈に動いた。小児慢性疾患病棟を建て、「みちのく・みどり学園療養所」を「みどり学園小児病院」へと格上げし、さらに増築してベッド数を増やした。赤字を消していく。岩手大学教育学部を訪れ、体育教師を志していた現在の藤澤昇会長(71)を身体づくりの指導員としてスカウトしたのもこの時分である。

 

 一方、つらい気持ちを抑えて入園、自閉しがちな子どもの顔を社会へ向けさせた。学園と病棟の全中学生が集う生徒会「牧草会」による弁論大会(第1回1971年)で胸の内を吐き出し、招待した近隣の中学校代表と交流する。太平洋岸の漁村に滞在(転住という)し、打ち寄せる波に遊んだ。病の重い子も。

 

 「たとえ病気でも心まで病んではならないという思いです」。そのころ指導員だった村上武男さん(66)は言う。「それと、百人の子がいれば百通りの治療法がある、子どもこそ原点、が口ぐせでした」。子どもの変容を背景に1987(昭和62)年、全国12番目(東北では2番目)にできた情緒障害児短期治療施設「ことりさわ学園」(現・児童心理治療施設)の元副園長である。園名は周辺の地名からとった。

 

  「緑が丘のみなさん さようなら」
 横断幕を張ったマイクロバスで園児が法人の現在地・盛岡市上田松屋敷地区へ引っ越したのは1977年6月であった。雨漏りなど園舎の老朽化は避けがたく、関係機関へ補助金を要請する一方、岩手医大への土地売却資金などで新築。一時は屋内温水プールも備えている(1982年)。

 

 移転後さらに、ぜん息や糖尿病の子のサマーキャンプ、登山に早朝のランニング、スキーや雪中行進、柔道教室などプログラムを拡充。早朝の乾布摩擦や夜の冷水かけに「エライ所に入ってしまった」と驚きながら健康を回復、退園していった中学男児も。前述の弁論大会発表文は職員が1カ月ほどマンツーマンで指導、仕上げる。年間の取り組みをシナリオ化し、群読スタイルの創作劇を10年ほど続けている。

 

 宮古・盛岡110キロ徒歩訓練はひょんなことから始まった(1984年)。糖尿病の中3男児が、故郷の宮古市へ戻りたいと言ってきかない。「じゃあ『治った』と親元へあいさつし、一度ここへ帰って来なさい。ただし歩いてね」。当時園長だった藤澤会長が水を向けた。

 

 ところが、中3の男女4人は宮古市浄土ヶ浜から園まで2泊3日かけ、職員と共に1月の国道106号を踏破。5年ほど前まで中学卒業前の盛岡の冬の風物詩として続けてきた。

 

 そのころ、不気味な変化が子ども社会を覆い始める。一見健康なのに、こころも体も動かない子たち。心身症、不登校児である。情緒障害児短期治療施設はその対応の一つなのだが、ケアは集団から個別へ、大人数の生活から地域分散の小規模施設へとかたちを移していく。さらに21世紀にさし掛かるころ、新たな問題が浮上しだす。虐待に苦しむ児童の激増だ。

 

【横田一】

 

 

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