社会福祉法人風土記<39>岩手愛児会 下 徹底的に寄り添い続ける

2018年0830 福祉新聞編集部
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玉泉寺での座禅(旧沢内村、2003年)

 「ゆるしてください おねがいします」
 東京都目黒区のアパートで今年3月、5歳の女児が虐待死した。親あての文章を残して。児童相談所の対応が不十分だった悲劇に、政府は6月、対策強化に乗り出した。

 

 「ここでも7割ほどは虐待を受けた子です」。盛岡市にある岩手愛児会の児童養護施設「みちのく・みどり園」の西山秀則園長(54)はそう言いながら、病院型の療養棟を案内してくれた。児童福祉法の改正で1997年に「虚弱児施設」から移行して以後、今いる52人の半分ほどは敷地内外5カ所の小規模グループホームへ分散、いくぶんガランとしている。

 

 虐待加害者の多くは親だ。「深い喪失感と恨みは悲しみや怒りへ変わり(愛着障害)、突然、友だちや指導員を殴ったり、小学生もスリッパを投げつける。治すのは容易ではありません」と児童心理治療施設「ことりさわ学園」の田中仁園長(54)。「病弱児だって親を恨みます。『なんで病気にした』と。でも自分が親になり、わが子の健康を祈る親心を知ったとき、育ててくれたことへの感謝に変わります」。やがて人を信じ、自立していく。虐待とは本質的に違う。
 脇道へそれるが、2007年、法人主催の創立50周年記念式でノーベル文学賞作家、大江健三郎さんを招き、講演会を盛岡市で開いた。テーマは『家族ーー恢復するということの意味』だった。

 

 自然と暮らしの中で子どもたちの育ち直しをーー。岩手愛児会はその糸口を、1991年から13年間、第9代会長を務めた石川敬治郎医師(1932~2005)と縁の深い沢内村(湯田町と合併して現・西和賀町)に求めた。『自分たちで生命を守った村』(菊地武雄著、岩波新書、1968年)として知られる奥羽山脈の豪雪村である。

 

 夏の1週間、施設ごと村へ移る。園児も栄養士らスタッフも。1986(昭和61)年を第1回に、中学生から始めた(2006年から5月実施に変更)。

 

 お寺で座禅、川遊び、虫取り、わら細工、福祉共同作業所で割ばし袋入れの手伝い、村の病院でお年寄りの足湯、夜は分宿先で晩酌のおじいさんらとの語らい…人と文化に触れつつ、トラウマを鎮めていく。真に人を癒やすのは人を超えるものでしかできない。

 

 学校不適応・虐待対応に絞ったごく少人数の合宿も2002年に取り入れた。村の民家に指導員と1~2泊する。苦しむ胸の内を語る子に寄り添い、その子にしか開けられない出口を探す。みどり学園の小規模ホームが始まるのもこの時期だ。

 

 一番早く(2005年)できた「石川ホーム」(責任者=鈴木聖子・主任保育士)の保育士、磯谷瑞希さん(24)は小6~高3の女子6人と暮らす。「近所のお年寄りのお宅の雪下ろしなど手伝います。お礼にキュウリを頂きます」と笑う。

 

 むろん、根気や協調性を養う仲間同士の活動も続けている。岩手県の室根村(現・一関市)に伝わる野岳太鼓づくりと演奏、小学生も小刀で木を削り、絵付けする「こけしづくり」。3・11東日本大震災翌月の2011年4月には小6~高3の41人が2班に分かれ県内の津波被災地を回った。

 

黙とう=岩手県大槌町役場前で

 

 

  「『うざい』や『死ね!』など軽がるしくいっている自分がバカに思えます」と中1女子は感想を記している(文集『とまった時計』)。 

 

 今、法人は少子高齢社会の到来に新しい変革を迫られている。一つは「もりおかこども病院」を閉じ、診療所化すること。入院36人のうち人工呼吸器などを付けた超重症児が約3分の1を占める。「引き受けるところがありませんでした。赤字が続き小児科単科の病院では対応は難しい」と米沢俊一院長(70)。来春、国立盛岡病院にできる重症心身障害者施設へ患者と医療スタッフが、年少児患者は県立施設などへ移る。

 

 「心おきなく病院を閉められる。外来診療は続けるが、小児医療は今後ますます、こころと体の両方を診る療育の発想が重要になっていくだろう」と話す。

 

 もう一つは「みちのく・みどり学園」の新築だ。病棟型の造りは既に時代にマッチしない。現在、グラウンドとして使っている土地に6人暮らしの小舎4棟と本部棟を2020年に完成させるプランが進む。藤澤昇・法人会長(71)は「貧富の格差拡大など虐待の背景は複雑化する一方。こころのつながる支援はより強く求められていく」と語る口調は熱い。

 

 「先駆的・開拓的・受容的」を合言葉に、「子どもこそ原点」の精神で次の一歩を踏み出そうとしている。

 

 

【横田一】

 

 

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