社会福祉法人風土記<44>びわこ学園 下 生涯にわたる支援が強み

2019年0131 福祉新聞編集部
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口分田政夫・びわこ学園医療福祉センター草津施設長

 「ここで働くやりがいは、医療ばかりでなく、重い心身障害の方々の生活もみられて、それを治療につなげていけること。長期にわたるので、利用者のライフサイクルに応じた支援が一生涯できるのも強みです」

 

 こう話す社会福祉法人「びわこ学園」の山﨑正策理事長(69)は、今も現役医師として働いている。

 

 だが、重症心身障害児者234人が入所する、草津・野洲の二つの医療福祉センターは、言葉による会話がままならぬ利用者が多い現場でもある。

 

 34年ここで働く児玉敏法人事務局長(54)は「就職したばかりの時は一方通行の声掛けだったが、そのうちにこちらの声に反応してくれる。利用者本人が気持ちよくなることは何かを皆で考え出すと、本人が返してくれるようになった」と、経験を語る。

 

 松本哲事業企画部長(64)が詳しく説明する。

 

 「ここの良さは、医師・看護師・生活支援員・リハビリ・管理栄養士などケアに関わる職員がチームを組んで、一人の利用者の課題を見つけ、本人にとって何が一番良いのかを話し合って、その結果を基に現場で取り組めること。その繰り返しを療育記録に残すので次につなげていける」

 

 無反応な子の反応の引き出し、動く重症児の仲間づくり、食事と排せつの指導……と療育の取り組みの記録が実践報告として多く残されている。

 

 「視覚障害のある寝たきり状態の幼児ゆきちゃんは人や物といった外界から引きこもった状態。ひも遊びや舟こぎで体を揺さぶり、音楽のリズム遊びに慣れてくると、少しずつ手を使った外界への働きかけが増え心を開いてきた」という17年間にわたる実践報告を「20年史」に書いたのは若き日の松本さんだ。

 

 「何がいいか分からへんからしてみよう、と安全を確かめながら皆でやってみる。利用者本人のメリットをたくさんつくりたいという思いはどの職員も一緒。実践を積み重ねられる現場を持つのが強みです」

 

 もう一つ、「一本のスプーン」のエピソードを披露するのは現場経験の長い田處浩壱庶務課長(42)。体のまひのある中年男性が食事は支援員によって与えられる全介助状態だったが、「以前は自分でスプーンを使って食べていたよ」という話を昔の担当者から聞いた職員チームの面々がトライしたら、何とか自分でスプーンを使って食べ始めた。「本人ができることを最大限支援する」というのが介護の原点。職員間の情報共有と連携が大切、という例だ。

 

 6人の重症心身障害児の入所から始まった「びわこ学園」。日本では心身障害への理解が進んでいなかった1963年、西日本で初めての開園を果たしてから半世紀以上がたった。

 

 学園設立に尽力した糸賀一雄(1914~1968)の発した「言葉が発せられない重い心身障害者も人間として成長、発達する権利がある。それを医療と教育で保証するのが私たちの務めだ」という宣言は、その後の障害福祉に携わる立法・行政や民間施設の人々に大きな影響を与えた。

 

 学園そのものの半世紀も大きく変わった。大ざっぱにスケッチすると、当初の子どもたちが成人となり、今では中高年となり新たな入所者も含め重度・重症化が進んだ。高齢化も著しく、234人中20歳以下は10人だけ。50歳超は117人と50%を占め、最高齢は85歳という。

 

 「医療支援の点からは、重症化、さらに超重症化という傾向に加えて、悪性腫瘍の増加もある。誤ご嚥えん性肺炎も多く、呼吸管理の技術が進み、気管切開、人工呼吸器の人が増えました」と語るのは、びわこ学園医療福祉センター草津施設長の口分田政夫医師(61)。施設長を21年間も務めるベテランは、びわこ学園の原点を忘れない。

 

 重い心身障害の人たちは言葉による会話が難しいが、目の動き、うめく、奇声を発する、全身緊張、手の震え、心拍数増加、赤い発疹が出たり消えたり、汗が出る、体をローリングする……などの反応で意思を伝えている。

 

 「それを感じ合うのが人間存在の基本。自分の心の鏡に映して表現し合う。そこに人格がある。そういう良き伝統を受け継いでいきたい。それぞれの専門性を持つスタッフも、ケアして意識を引き出すのが面白いという人がたくさんいます」と口分田さんは言う。

 

 もう一つ大きな流れがある。地域連携だ。「施設に入ることがベストなのか」という問い掛けから、学園内で議論し、県市町と話し合った結果、施設入所だけでなく、短期入所、在宅支援、通所・通園、グループホーム、訪問看護、児童発達支援、放課後デイサービスといった多様なサービスが今では展開されるようになっている。

 

訪問看護ステーションちょこれーと、児童発達支援事業所ちょこらんどの職員たち(草津)

 

 2018年に開設した多機能型事業所「ちょこらんど」(草津市)を訪れると、人工呼吸器を付けた子どもたちが自宅からクルマで運ばれてきて、寝たままの姿勢ながら半日お遊戯をしたりして楽しい時間を過ごしていた。

 

 さらに在宅の重症心身障害者の日常生活をより安全に支えようと2013年、口分田さんが医師・看護師・相談員・リハビリ・学校教員ら幅広い職種の人に呼び掛けて、「ざっくばらん会」をつくった。こうした横の連携が広がり、今では県の正式な事業となり、身近な診療所でも急な診察が受けられる体制づくりが進んでいる。

 

 口分田さんは「これからは人生100年時代。地域のバリアを超えて、障害者の生きる力が高まるようなサポートをしていきたい」と大きな構想を示している。

 

 びわこ学園初代園長の岡崎英彦(1922~1987)の言葉「本人さんはどう思てはるんやろ」が脈々と生きていると感じさせる現場だった。  

 

【網谷隆司郎】

 

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