社会福祉法人風土記<47> 光道園 上 苦難乗り越え〝愛盲運動〟へ

2019年0523 福祉新聞編集部
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光道園を創設した中道益平

 「愛なき人生は、暗黒であり 汗なき社会は、堕落である」。光道園を創設した中道益平(1907~78)が生涯を通して貫いた精神であり、自身に課した人生訓・志だ。「光道園精神」として現在に継承され、光道園職員の実践はこの言葉とともにある。

 

 この言葉は1906(明治39)年に福島県出身の蓮沼門三が興した修養団(現・公益財団法人修養団)の誓願の中にあり、中道が若かりし時に共鳴、自身の人生訓・志とした。

 

 中道は鯖街道で知られる福井県小浜市(旧小浜町)の生まれ。鮮魚商だった父は、物心ついた時には中風で半身不随、祖母と母が漁師の取って来た魚の仕分けや干物づくりなどをして日銭を稼ぎ家計を支えていた。

 

 14歳だった2月に祖母が逝き、父も8月には逝き、戸長代理として仏事をこなし、ニシン、塩マスなどの干物を自転車に積んで行商、家族を支えた。暮れに兄が軍隊から戻ったことから翌年、京都の水産会社に働きに出る。〝丁稚・小僧〟から正社員になり、3年目にはセリ人を任されるまでになるが、1925(大正14)年18歳の時、突然に目がかすみ病名不明のまま右目失明。同時期に会社も新しく出来た中央市場に併合されることになり失職した。

 

 打ちひしがれた中道だが、「しっかりせんかい益平、米の飯はどこにでもついて回るわ」という亡父の声が聞こえ奮起。京都の百貨店に入社、やがて一部門の責任者に抜擢されるなど順調だった。しかし、今度は残る左目がかすんだ。網膜剥離と診断されて入院、1年2カ月に及ぶ闘病・手術のかいなく、33(昭和8)年26歳の時、左目も失明した。

 

 かつて夢見た青年将校への道も既に断たれており、これで実業界へ雄飛する夢も完全に断ち切られた。人間好きが人間嫌いになり、人との接触を避けて毎日病院の庭石に腰掛けて時を過ごすようになる。

 

 ある日、雑草が指先に触れ、嗅ぐように雑草を触っていくと、腰掛けていた庭石の下に続いていて引っ張ると千切れて葉先がわずかに指に残った。雑草は大石の下で潰されずに根を張り、引っ張っても抜けず必死に生きている。天の啓示を受けたようにハッとし、取り付いていた死神が飛散したのを感じた。千切った雑草を握りしめ「負けないぞ、お前には。ありがとう」と叫び、再び立ち上がった。34(昭和9)年に福井県立盲学校へ入学し38(昭和13)年に卒業。当時はまだ視覚障害者唯一の職業だった〝あんま〟に就いた。

 

 第2次世界大戦末期、あんまの客に「雑炊配給の長い列に健常者にもまれて目の見えない人が並んでいる。哀れだ。何とか楽に雑炊が食べられるようにならないものか」と言われ、中道の心に火が付く。福井市役所へ日参、何日もかかってやっと通された助役室で話を聞いてくれた助役は、その場で雑炊券50枚を渡してくれた。この券が目の不自由な人たちに役立てられたのは言うまでもない。〝一椀の雑炊〟、これが中道の愛盲運動の第一歩となった。

 

 3度来日したヘレン・ケラーとの出会いもある。盲学校生だった初来日時(昭和12年)には、福井駅で岩橋武夫(社会福祉法人「日本ライトハウス」創業者)が通訳する女史のメッセージを聞き、若い血がたぎった。

 

 48(昭和23)年の第2回訪日時の講演計画には福井県は入っていなかった。福井大空襲(昭和20年7月)と福井大地震(昭和23年6月)で打ちひしがれている福井県民、特に盲人たちに更生自立と飛躍を女史から強調し勇気づけてもらいたい、との一心で中道はGHQに掛け合い、女史の福井駅ホームでの講演が実現する。6年後、最後の来日となった女史と京都で握手を交わした。

 

 こうして中道は障害者支援・愛盲運動を使命として邁進・全力投球していくことになり、1957(昭和32)年に身体障害者更生施設・光道園を創立、9年後に日本初の〝盲精薄者収容施設〟ライトセンター(重度身体障害者収容授産施設)を設立する。

 

光道園でのたわし作り作業

 

 「中道さんと初めて会ったとき、印象は極めて強烈なものがあり、全身意志の人である思いがして、私はしばらく、全盲のこの人の顔を見つめていた。しなければならぬ仕事を己れに課し、幾多の苦難を乗り越えて、光道園とライトセンターの建設に挺身、こつこつとやり遂げた。これが、全盲の人の成したことであるかと気付いて、声を呑まずにおれなかった。同郷の後進として、私は氏の爪のあかでも呑んで、これからの人生を考えねばならない」と若狭出身の作家・水上勉は『雑草に支えられて』(1967年刊)の序文に記している。  

 

(荻原芳明)

 

 

 

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