社会福祉法人風土記<53> 札幌慈啓会 上 札幌に開山、救済の道へ

2019年1017 福祉新聞編集部
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開設当初の養老院

 法人の母体は浄土宗北海道本山「新善光寺」。札幌の繁華街〝すすきの〟に隣接している。初代住職は大谷玄超上人(1853~1920)。浄土宗大本山増上寺(東京都港区)から特命を受けて北海道に派遣され、道内を布教して歩き回り、札幌がやがて北海道の中心になることを見越して、1884(明治17)年、寺を開山した。

 

 札幌市内を俯瞰し石狩平野を眺望できる名所として知られる藻岩山(531メートル)は、当時は道のない原生林だった。上人は親交のあった岩村通俊・初代北海道庁長官に道を付ける相談をされ、新善光寺檀信徒が1年かけて麓から山頂まで3・5キロの道を開き、1886(明治19)年6月1日に完成を祝った。現在も、この日が「山開き」の日で、山道には33体の観音像が安置され、「慈啓会病院入口」からのハイキング路として市民に親しまれている。

 

 この観音像だが、どうしたことか、上人が製作依頼した佐渡の職人から届いた像は大きくて重く背負って運ぶことができず、作り直しとなった。設置されたのはそれから15年後、大谷上人が東京(江東区)の重願寺に戻った後の法灯を継いだ林玄松・新善光寺第2世住職(1872~1928)の代になってからだった。

 

 大正末期、経済不況や凶作が続き、人々は疲弊し生活困難者が増加、新善光寺には常時5~6人の身寄りのない老人が檀信徒の喜捨によって保護、救済されていた。

 

 当時の札幌は、商取り引きの大半を東京に依存しており、大正12年の関東大震災の影響で日用品などが入手困難となり大きな打撃を受けていた。職を求めて本州から北海道に多くの人が移り住んだ時期でもあったため、人口は膨張していた。

 

 寺に身を寄せる老人だけでなく、寄る辺のない多くの人を救済するための安住の地を探し求めていた玄松上人は、藻岩山山麓の寺所有地に隣接していた北海道庁立札幌学院(感化院)が移転し校舎が空き家になったのを機に道庁から校舎を借用し、1925(大正14)年10月、法人の起源となる札幌養老院(収容予定者20人)を開設した。

 

 檀家総代の協力で620人の賛助会員を集め、養老院創立委員には当時の札幌の著名人が名を連ね、開院式には北海道庁長官はじめ、札幌の有力者、各宗寺院、慈善事業団体など500余人が集まった。この模様を『北海タイムス』が大々的に報じた。翌年、新善光寺は、大谷初代住職が藻岩山開拓のおりに新善光寺の発展・安泰を願って取得していた養老院隣接の寺所有地を養老院に寄付した。道庁からは院舎と敷地が養老院に払い下げられ、翌年に財団法人札幌養老院として認可され、玄松上人が自ら初代理事長となった。以後、ここが法人活動の本拠地となった。

 

 当時、宗教界では社会事業への関心が高揚し、浄土宗では大正15年に浄土宗大阪教区社会事業協会を設立。その前年に養老院を創設した林玄松・新善光寺2世住職(初代法人理事長)は先駆けの実践者の一人といえるが、養老院設立から3年後の12月に遷化。2代目理事長に全道一と言われた山形屋旅館の創業者で檀家総代の大竹敬介(1855~1932)が就任する。大竹理事長は、老朽化した院舎の整備を進め、1931(昭和6)年、100人収容の大改築を行い、画期的な「夫婦寮」を新設した。

 

改築後の養老院、夫婦寮もできた(昭和6年)

 

 のちに日本精神病院協会(現日本精神科病院協会)会長などを歴任した渡辺栄市医師(1905~1988)は、学生時代から養老院の老人たちを診察していた。大改築の年に北海道帝国大学(現北海道大学)を卒業し法人初の嘱託医(無給)となった。当時、東京の浴風会が日本一と聞き、自費で視察に行くなど熱心に関わった。

 

 改築に当たり、設備はなく部屋があるだけの診療室だったので、「病室・診察室・薬局・処置室だけはつくってほしい」と要望したところ、役員は快諾し希望が実現した。自身は北大の職員で転勤もあり、院の設備だけでは適応できない場合もあることから、法人と北大のパイプ強化に努めた。後輩医師たちが交代で嘱託医となり北大との関係は戦後まで続いた。

 

 法人には「心は信仰による安心、身体は仁術による医学の力で」という仏教精神が流れ、何もなかった小さな診療室は現在の慈啓会病院に発展した。    

 

 

【荻原芳明】

 

 

 

 

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