社会福祉法人風土記<59> 蓬愛会 下 夢を追って挑戦続く

2020年0414 福祉新聞編集部
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セラピー犬・にこチャンを囲んで(左から)横島、大山、縣

 而今荘の認知症の利用者が大山知子(現理長)の赤いスカートをつかみ「おらも、こんな服を着てみてえな」というようなことを東北なまりで言った。「その頃の私は派手な服を着ていたんです。もっとも今も派手ですが、今は意識して着ています」と大山は言う。その件がきっかけとなり月1回「洋服などの展示・販売会」を施設内で開くことになる。しかし始めたころの利用者は皆、黒や茶系のものを選んでおり、大山が聞くと「色物を着たいが、恥ずかしい」とのことだった。そこで大山と職員が「素敵!」とか褒めちぎったり心をくすぐったり、工夫をした結果、徐々に明るいものを選んで着るようになったという。「派手な服、明るい刺激のある色、動くものを目で追っているんですね。目で追うことによるリハビリ効果ですね。そこからカラーセラピーやアニマルセラピーを知りました。利用者はもちろん、訪問してくださる地域の方も子どもも喜んでくれる施設づくりに力を入れたわけです」と大山は振り返る。建物の色だけでなく、壁紙・物品・職員のユニホームなども極力カラフルなものにしていった。

 

 創立者・石川渉が北欧視察で得たものは理念だけではなく、居住空間の広さや快適感、明るく開放的な建物・外観などにも強い刺激を受けていた。その思いを反映して法人は次々と瀟洒な施設を開設していく。

 

 梨の里・芳賀町にあるデイサービスセンター梨里庵、さくら市に特別養護老人ホーム「にこんきつれ荘」や地域密着型特養「而今桜」、氏家城跡近くに小規模多機能型居宅介護「城下庵」、宇都宮市内には特養とケアハウスの合築「ケアプラザ而今」や養護老人ホーム・ケアハウス「アオーラ而今」、地域密着型特養の「美渉」など、法人の〝必要とされるものは創る、熱く燃える福祉〟は止むことがない。

 

特養「ケアプラザ而今」(宇都宮市砥上)

 

 

 2010(平成22)年、蓬愛会と南那須社会事業協会の2法人の理事長を務めていた石川渉は福祉一筋に生きた生涯を閉じた。「石川は、仕事一筋で家庭では不器用。利用者や職員への愛情は身内以上に深いものがあり、その分、私には大変厳しく、仕事上で娘として接することはほとんどありませんでした。それでも娘としては父との距離が縮まったのは仕事を通じての感があり、この育て方で、今の私が存在するのではないかと思っています」と蓬愛会2代目理事長となった大山知子は言う。「美渉」は、その大山が父・渉と母・ミチ(93)に感謝して名付けた。

 

 医療現場から福祉へと移って来て「当初は医療と福祉の違いに迷い悩んでいたこともあった」と言う横島瑞恵(法人在職18年)・美渉施設長が「これは素晴らしい!」と胸を張るのが、創立者・石川が1986(昭和61)年に策定した「蓬愛会・而今荘運営の基本」で12ページの小冊子だ。今では法人全体のバイブル・憲法となっている。平成5年と7年に「入浴と食事について」を一部改正、入浴時間は選択ができ午後5時~6時、午後7時~9時半。食事は3食とも選択制とし食事時間に幅を持たせて朝食午前7時~9時半、昼食午前11時半~午後1時半、夕食は全員で団欒すると明記した。

 

養老「アオーラ而今」(宇都宮市陽東)

 

 

 美渉の隣に今春の開設をめざして広域型特養「カルぺ而今」の建設が急ピッチで進んでいる。カルぺはラテン語で「花を摘む」意味から「一日一日を花と見立て、花の一本一本をいとおしむように日々を愛する施設」を目指すという。ターミナルケアユニットは5室で広く、すべて玄関が独立した平屋建て。利用者の穏やかな生活を維持しつつ、法人は情熱を込めて〝燃える福祉〟の挑戦を続けている。

 

 カルぺ而今の建築工事関係者が一日の業務終了の挨拶をして帰る後ろ姿に、理事長は美渉の玄関に立って頭を下げていると職員は言う。「面と向かって感謝される人は多いが、自分の後ろ姿に向かって頭を下げて感謝してもらえるように精進せよ」という言葉があるが、大山は感謝される人というよりもあくまでも「感謝する」人であるようだ。「そこそこに、ほどほどに、では、この仕事はやっていけない。あきらめない、立ち向かっていく」人でもあり、職員にも「そうあって欲しいと願っている」と大山理事長は言う。

 

【荻原芳明】

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