社会福祉法人風土記<60>賛育会 下 令和の災禍に立ち向かう

2020年0630 福祉新聞編集部
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台風19号で水没した特養玄関(豊野事業所、2019年10月13日)

 賛育会の長野県における事業展開は、東京大空襲による疎開を縁として始まり、現在は長野市豊野町で豊野事業所として活動を続けている。

 

 2019(令和元)年10月13日未明、台風19号により千曲川堤防が決壊し豊野事業所は2・3メートルの高さまで泥水につかった。特養・老健・介護医療院など5つの入所施設とクリニックや通所・訪問事業など全事業が機能停止になった。利用者278人は3日間かけてDMAT(災害派遣医療チーム)や自衛隊の支援を受けて近隣福祉施設や医療機関へ避難した。

 

 複数の団体が協働で立ち上げた被災地域住民のよりどころ「ぬくぬく亭」は賛育会豊野事業所が管理し、職員は日々汗を流している。「地域とともに地域全体の復興を目指さない限り、事業所の復興はないと改めて感じています」と森佐知子・介護老人保健施設「ゆたかの」事務長は語る。

 

「ぬくぬく亭」で奮闘する職員

 

 今年に入ると、中国武漢から始まった新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい世界保健機関(WHO)はパンデミックを宣言した。日本でも4月7日には緊急事態宣言が発せられて外出自粛要請や営業自粛、在宅勤務などが強く求められる事態となり、密閉・密集・密接の3密を避け「新しい生活様式」が推奨される困難な対応を迫られている。いまなお収束の見通しは立たない。

 

 賛育会では従来から感染症対策に力を入れ、賛育会病院の感染症制御専門医師(ICD)と同専門看護師(ICN)を指導者として法人感染対策委員会を常設している。ICDとICNは年1回全施設を巡回し感染防止対策実施状況をチェック。感染症が発生した場合には随時、施設を訪問し助言指導を行い、施設内感染を最小限に抑える体制をとっている。また、全施設に常設の感染対策委員会を設置、感染予防マニュアルに沿った業務体制を整え、職員教育を徹底し日々、感染の予防に努めている。

 

 新型コロナ対策としては即座に危機管理委員会を設置し、従前の感染症対策をさらに強化した法人内統一対応基準を設けた。3月以降のすべての行事や会議を中止・延期し、TV会議で対応。施設での面会を禁止し、家族へは手紙や写真で近況を報告、タブレットによる面会などを行っている。

 

コロナ感染予防、タブレットを使って面会

 

 「東京都地域周産期母子医療センターとしてNICU(新生児集中治療室)を有していますから、妊婦と小児を守ること。重篤化が少なく感染が分かりにくい幼児を対象とする保育事業では職員を守り感染防止を図ること。高齢や基礎疾患を持つ人がいる高齢者施設ではウイルスを入れないこと。これらを基本方針としてさらに感染予防に努め、全事業で引き続き地域から必要とされる機能継続のために使命を果たす努力をしているところです」と藤田寿彦・法人本部総務部長は言う。

 

 次の100年に向けて歩み出した賛育会だが、令和の時代に入り、またも大きな試練の時を迎えている。振り返ると、米騒動が発生し社会不安が増大した1918(大正7)年に設立された賛育会は、1世紀を越す歴史の中で関東大震災や東京大空襲など度重なる災禍に見舞われたが、その都度克服し乗り越えて来た。そのDNAが法人には流れている。

 

 16施設、63事業、職員数2100人強の大法人となった賛育会。歴史の始まりは無料診療とキリスト教の「隣人愛」の実践。その本質・志は今も不変で、「人びとの『生きる』と『幸せ』を支援し地域に貢献していく」と高らかに謳う。

 

小堀洋志・現理事長(第11代)

 

 「私たちを取り巻く世界・社会は、これからも劇的に変化していくと思います。その変化に対して、何を変え、何を守らなければならないのかが問われます。賛育会は変化に柔軟に対応できる組織でありたい。一方、社会の変化にもかかわらず、保ち続けたい〝想い〟があります。創立以来持ち続ける『隣人愛』の実践と、すべての生命を尊重し大切にするという賛育会クレド(信条・志・約束)です。医療、介護、保育を通して『社会の中で弱い立場にある人びとに寄り添う』ことこそが賛育会の使命であると考えています」と小堀洋志・理事長は語る。

 

【荻原芳明】

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