社会福祉法人風土記〈16〉大館感恩講 下 初の3歳未満児保育始める

2016年1020 福祉新聞編集部
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職員が植えた天然芝生の上で伸び伸びと遊ぶ子どもたち

 「昭和45(1970)年2月1日、先が見えないほどの猛吹雪に見舞われた中で、3歳未満児保育所・大館乳児保育園は産声を上げました」

 

 「先生をはじめ保育士の全員が、赤ちゃんと肌を合わせ抱っこやオンブで安心させようとした、と聞かされました。先生はまさに『つらい母親の気持ちに寄り添い、小さな尊い命を育む』という貴重な仕事にまい進されたのでした」

 

 今年7月25日に亡くなった大館乳児保育園の丸山金・初代園長の告別式で、兜森和夫・現園長(68)によって弔辞が読み上げられた。

 

 1966(昭和41)年に社会福祉法人として再スタートを切った大館感恩講。大館市から母子寮の経営を引き継いだが、一方で感恩講独自の福祉事業として当初から計画していたのが、3歳未満児保育所の開設だった。

 

 高度経済成長の波が押し寄せた1960年代から、仕事をする女性の数が徐々に増え始め、子を持つ母親も働く「共働き夫婦」も目立つようになる。子どもを預かってほしい、という声は都会から地方にまで押し寄せてきていた。

 

 初代園長にと、地元の小学教諭を長く務めて退職していた丸山に白羽の矢が立った。秋田県で初の民間保育所。しかも初の3歳未満児を預かる赤ちゃん施設。

 

 日ごろ女性らしい温厚な笑顔を浮かべる丸山も、半年前の施設建設地鎮祭のとき、玉ぐしをささげる手がぶるぶる震えたという。その緊張と不安の理由を次のように回想する。

 

 「どこからどう手を付けていったらよいものか、この場に及んで不安が体いっぱいに広がって、どうすることもできなかった」

 

 「0歳、1歳児の集団生活の中で、あそびが情緒の安定と知的活動を促す大切な要素であると言われながら、乳児のあそびとは一体どんなものか、未開拓で参考になる本もなかったのです」

 

 さらに一番の敵は当時の日本全体に根強くあった「3歳児神話」だ。3歳になるまでは母親が身近にいて育てるべきだ、という世間の非難の視線が刺さる時代だった。愛児を保育園に委ねて職場に向かう母親は後ろ髪を引かれるようなつらさを毎朝味わう。

 

 そんな母親たちを安心させるため、丸山園長は保育所を公開する園内公開保育を実践。保育士たちが毎日乳幼児の検温結果、リズム遊び、指先を使った遊び、ことば遊びの調査結果を全国の研修大会で発表し、本にまとめるなどして、他府県の先例となる活動を指導した。

 

 丸山園長の下で働いた佐々木和恵、虻川公美子、黒沢郁子らベテラン保育士は「園長からは、乳幼児を真綿でくるむように大切に、といつも言われました」と言う。

 

 現在、生後2カ月の0歳児から2歳児まで定員70名。もも組(0歳児)あか組(0歳・1歳児混合)あお組(1歳・2歳児混合)き組(2歳児)の乳幼児を、保育士22人、看護師1人など合計32人の職員が、朝7時から夜7時まで見守る。芝生の上で思い思いの遊びを楽しみ、植えた芋やトウモロコシを収穫する楽しみもある。園の周辺散策をしても、「この辺りの田んぼにいるカエルも子どもたちは怖がりません」と男性保育士は〝田舎の子〟のたくましさを口にする。

 

 保育の仕方もやはり時代の波は受ける。昔当たり前だった布おむつも今では大半が紙おむつに。「オンブしていいですか」と今は親の了解を得る。佐々木保育士は「保護者との連携が一番難しいけど大切なこと」と言い、木村美幸保育士は「例えばおむつが取れる年齢に関しても、今は雑誌やネットで子育て情報が豊富にあり、お母さんはそれを基にして言ってくる。うんうん、そうは書いてあるけど、この子はねえ… と説明すれば分かってくれる」と、母親との対話の大切さを強調する。

 

 大館感恩講では2014年に大館市から指定管理を受け、市内の4保育園の運営もしている。近い将来、0歳児から小学校入学までの間をシームレスに保育できる施設を目指している。

 

 「保育園落ちた 日本死ね」の匿名ブログ事件以来、子育て問題が今年一気に政治問題化した。少子化が進み家庭での保育力が弱くなっている。だからこそ、さらに質の高い乳幼児保育が求められる。江戸時代からの長い伝統を持つ大館感恩講。「困っている人を助ける」というシンプルな精神の実践が21世紀の今、問われている。

 

伝統を受け継ぐベテラン保育士たち(左から佐々木和恵、虻川公美子、木村美幸、黒沢郁子の皆さん)

伝統を受け継ぐベテラン保育士たち(左から佐々木和恵、虻川公美子、木村美幸、黒沢郁子の皆さん)

 

 

 

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