社会福祉法人風土記〈19〉 児童養護施設麦の穂学園 下 太くなった地域のつながり

2017年0202 福祉新聞編集部
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麦の穂乳幼児ホームかがやき
麦の穂乳幼児ホームかがやき

 社会福祉法人「カトリック名古屋教区報恩会」の児童養護施設「麦の穂学園」が誕生したのは1958(昭和33)年11月。初代園長として就任した横川満雄氏が33歳の時だった。金沢市の聖霊愛児園の児童指導員を退職しての新天地だった。

 

 満雄氏が麦の穂学園を立ち上げて2年後に生まれた長男で、2代目の聖園長は「全然知らない土地で、知り合いもいない。地域の人に受け入れてもらえるかどうか。『島流しにあったみたいだ』と話していました」と述懐する。定員が20人。最初は5人の子どもを受け入れ、土地を寄付してくれた実業家の名前を冠して「藤井学園」の名称でスタートした。

 

 園舎は瓦ぶき平屋建ての民家。8畳間が3部屋と小さな食堂を挟んで4・5畳1部屋だった。子どもたちの机やいすもなく、粗末な腰掛けが2台。これを1間(約1・8㍍)幅の廊下に並べ、食卓や机として使ったという。

 

 開園した翌年7月に、カトリック名古屋教区を後ろ盾にした社会福祉法人として認可された。岐阜県からの法人開設の認可条件として「施設整備10カ年計画」を予定通り進めることが求められていた。

 

 第1期工事として木造平屋建ての新築に取りかかり、60年7月に男子児童の居室棟が完成。定員が20人から50人に変更され、大家族での生活になっていく。さらに3年後には、女子児童が入る木造瓦ぶき平屋建ての児童棟も完成する。名古屋教区からの援助金や岐阜県共同募金会の配分金などが充てられた。

 

 開園から20年がたった78年に「社会福祉法人藤井学園」から、現在のカトリック名古屋教区報恩会の麦の穂学園に名称を変更する。聖園長は「施設の運営は個人がやっているのではなく、国や県のお金をいただいて取り組んでいる公的な施設だということを、広く知ってもらう意味もあって名称を変更した」と説明する。

 

 さて、法人の報恩会は現在、三つの施設を運営しているが、麦の穂学園に続いて99年に「子ども家庭支援センター麦の穂」を設立。さらに2001年には乳児院の「乳幼児ホームかがやき」が新設される。

 

 支援センターは子育ての相談業務が中心。電話や来客のほか、家庭に出向いて相談に乗ることもある。97年に新築した地域交流ホーム「麦の穂会館」は子育てサロンで、未就園児の母親や地域の人たちに開かれた意見交換の場でもある。市の3歳児検診の場所として使われている。

 

 乳児院は岐阜県から運営を委譲された民間の児童養護施設2カ所のうちの一つで、「乳幼児を一貫して養育する大切さを重要視した」ものだったという。建築費は県が全額負担した。人員配置が手厚く「子どもたちの愛着が育つと思っています」(聖園長)。家庭引き取りや養子縁組ではなく、乳児院から麦の穂学園に進む子も多くなってきたという。

 

 ここで、東京の大学生ボランティアが、学園に物心両面で支援していたことも触れておきたい。東京のラ・サール修道院が創立した「ラ・サール学生寮」の大学生たちだ。初代の満雄園長は自著の中で「経済的に苦しかった施設運営に大きく貢献してくれた。子どもたちのよき兄、姉となって後援会活動を繰り広げてくれた」とつづっている。

 

 聖園長も「いまは閉寮になったが、1962年から約20年間ぐらいだったか。東京からわざわざ、長期の休みで学園のキャンプを企画してくれたり、クリスマス会、卒園会を一緒にやったりするようなつながりでした」と振り返る。

 

 麦の穂学園が開園して、今年で59年になる。これまでに家庭引き取りも含め520人ぐらいが卒園していった。最初の卒園生の一人は、学園の運営に助言をする法人の評議員になっている。聖園長は「運営を見守ってくれるというか。私たちの方向がぶれないようにするためにも、大事なことだと思います」と感謝の言葉を口にする。

 

 「施設は閉鎖的であってはならないという気持ちがあって、地域に理解される施設でありたいと思っています」と聖園長は言葉に力をこめる。少子高齢化が進んだこともあるが、地区の祭りや運動会への参加は、地域からの要請があってのことのようで、「学園が関わってくれないと何もやっていけない」と言われるぐらい応援してくれるようになった。麦の穂学園が開園した当時、学園に否定的だった地域とのつながりは、大きく様変わりしてきたようだ。

 

正門と記念碑

正門と記念碑

 

 

 

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