児童養護施設出身者に振り袖を 成人式を断念した過去バネに

2017年0214 福祉新聞編集部
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標隆司さんが撮影した記念写真
標隆司さんが撮影した記念写真

 児童養護施設で育った人に振り袖姿の写真を贈る「ACHA project」(アチャプロジェクト)が始まってもうすぐ1年になる。代表の山本昌子さん(23)自身も施設で育ち、経済的負担の重さから振り袖を着られず、成人式を断念。「同じ境遇の後輩には、あの孤独感を味わってほしくない」。1人でゼロから積み上げた彼女の行動力に、共感の輪が広がりつつある。

 

思い出の地で撮影

 

  「ちょーヤバイ! かわいい! もう少し上向いて」―。1月下旬の「浜離宮恩賜公園」(東京都中央区)。山本代表が高い声を出すと、場の空気が温まり、次第にモデルの表情も柔らかくなった。

 

 今回撮影に臨んだのは、都内の児童養護施設出身で知人の紹介により応募したアヤさん(20、仮名)。かつて茶道部の活動で来た同公園を自ら撮影場所として選んだ。

 

 同行スタッフは、カメラマンや着付け、メイクなどを担当する計7人。皆ボランティアだが、中にはプロとして活動している人もいる。事前に登録して、撮影日に都合がよければ参加するシステムだ。

 

 撮影は終始、和気あいあいとした雰囲気で行われた。公園を歩き撮影スポットを見つけたら、みんなで囲みシャッターを切る。時おり、観光中の外国人から、写真を頼まれることもあった。

 

 2時間にわたる撮影を終え、アヤさんは「こんなに注目を浴びることなんて初めて。最初は緊張していましたが、段々慣れてきました」と笑顔を見せた。

 

リラックスできるよう、たまに話し掛ける山本代表

リラックスできるよう、たまに話し掛ける山本代表

 

直面する現実

 

 山本代表がプロジェクトを始めたのは、自分が振り袖を着られなかった時、強い孤独感を味わったからだ。

 

 両親の離婚をきっかけに、生後4カ月で乳児院へ。母親の顔を知らないまま、18歳まで都内の児童養護施設で暮らした。「施設は家庭的な雰囲気で楽しい思い出ばかり。何とか今まで生きられたのも、本当に愛情を注いでくれた職員のおかげ」と振り返る。

 

 19歳から自立援助ホームに移り、居酒屋のバイトで学費を貯めた。翌年、夢だった保育士を目指して上智社会福祉専門学校に進学したという。

 

 そんな中で迎える成人式。振り袖には20万~30万円ほどかかると知った。当時は生活の余裕もなく、断念せざるを得なかった。

 

  「1人で生きるという現実を突きつけられ、本当に苦しかった」と山本代表は話す。当時、周囲には「成人式には興味ない」と強がっていたものの、本当は皆がSNSに載せる振り袖姿がうらやましかったという。

 

ネットで調達

 

 転機は21歳の時だ。さまざまなことが重なり精神的に落ち込む中、学校で「アチャさん」と慕う先輩が振り袖撮影に必要な費用を出してくれた。「自分の振り袖姿を見て、胸が高鳴り、ここまで生きられたのは多くの人のおかげだと実感した。今度はこの感動を、ほかの女の子たちにも味わってほしい」。恩人のあだ名をプロジェクト名に決めた。

 

 ただ、最初は資金も何もない状態からのスタート。そこでネットの掲示板に、プロジェクトの説明と振り袖を譲ってほしい旨を書き込んだ。

 

 すると、徐々に賛同者が集まってきたという。今は振り袖24枚、帯14本をそろえており、登録ボランティアも40人を超えている。

 

 プロジェクトは通年で、これまで8人を撮影した。保育士として児童館で働く山本代表は、撮影の日は仕事を休んで臨む。

 

 当面の課題は活動資金の捻出だという。

 

 現状では、交通費やクリーニング代などは、ネットを通じてわずかに集まる寄付と自己負担でまかなう。今年2月からは、活動範囲を関東だけでなく、大阪にも広げる予定だが交通費が重くのしかかる。いずれは全国展開を目指したい考えもあるが、ハードルは高い。

 

 それでも山本代表は「限界まで頑張って、長く愛される活動にしたい」と話す。「女の子が振り袖を着れば、生きる勇気が生まれ、次への一歩を踏み出せる。これまでお世話になった人へ振り袖姿を見せて、生まれてきた喜びを一緒に分かち合ってほしい」と語った。

 

 

 

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