「いま君は幸せか」 相模原事件の容疑者起訴で被害者の父親らコメント

2017年0306 福祉新聞編集部
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公園でお弁当を食べる尾野一矢さん(中央)と父・剛志さん(右)、母・チキ子さん

 神奈川県立の障害者支援施設「津久井やまゆり園」(相模原市)で起きた殺傷事件で、横浜地方検察庁は2月24日、殺人罪などで元職員の植松聖さとし容疑者(27)を起訴した。精神鑑定などを踏まえ、完全責任能力があると判断。しかし、障害の有無などは明確にしなかった。同園の入所者19人が死亡した戦後最悪とされる殺人事件は、今後、公判前整理手続きを経て裁判員裁判で審理される。

 

 横浜地検が植松容疑者に適用した起訴罪名は殺人、殺人未遂、建造物侵入、逮捕致傷など六つ。同日に会見した片岡敏晃・横浜地検次席検事は、植松容疑者の認否を明らかにせず、「精神鑑定などを総合的に判断した結果、刑事責任能力を問えると判断した。適切な処罰を得るべく立証していく」と述べた。

 

 一方で、刑事責任能力があると判断した詳細な理由や、犯行の計画性の有無、逮捕後に植松容疑者の言動に変化があったかなどは回答しなかった。ある捜査関係者は本紙の取材に「殺人の動機は個人の思想の問題で特殊な例だ。津久井やまゆり園という職場の環境が影響したとは思えない」と語った。

 

 起訴状などによると、植松容疑者は2016年7月26日未明、意思疎通のできない入所者を殺害する目的で同園に侵入。包丁などで突き刺して19人が死亡し、24人が全治9日から6カ月の重軽傷を負う惨事となった。

 

 また、外部への通報を防ぐため、37歳の職員の後頭部を床面に打ち付けて結束バンドで両手首を縛り、全治1週間のけがをさせた。39歳の職員には顔面に暴行を加え、眼底骨折など全治2カ月のけがを負わせた。

 

 今回の事件では、遺族の要請を受けた神奈川県警が被害者を匿名としたことについても議論が起きた。裁判で被害者が実名で審理されるかは、裁判所が決める。

 

舞台は裁判員裁判へ

 

 今後、舞台は横浜地裁へ移り、裁判員裁判が開かれる。

 

 最大の争点は、どこまで植松容疑者の刑事責任能力を認めるかになりそうだ。刑法の規程では、精神障害などで容疑者が行動を制御する能力がないと判断されると、刑事責任を問われない。

 

 犯行前の16年2月、植松容疑者は衆議院議長公邸に「障害者を殺すことは不幸を最大まで抑える」「私はUFOを2回見たことがあります」などとする手紙を持参。県警が相模原市に通報し、措置入院となった。

 

 その後、同年3月に退院したが、4カ月後の7月26日に犯行に及び、同日、逮捕された。9月21日からは、精神の状態を調べる鑑定留置となっていた。

 

 横浜地検は植松容疑者の障害の有無や病名など、鑑定結果を明らかにしていない。しかし、自分を特別な存在だと思い込む「自己愛性パーソナリティー障害(人格障害)」と診断されたとする一部報道もある。

 

 精神医学の専門家によると、人格障害とは性格の偏りで、責任能力が認められる場合が多い。08年に茨城県土浦市で2人が死亡した無差別殺傷事件の犯人は人格障害と診断されたが、責任能力が認められ死刑が確定、執行された。

 

 今回の事件の裁判は長期化することが必至だ。

 

 裁判の前には、争点が複雑な裁判員裁判で実施される「公判前整理手続き」が行われ、争点などを絞り込む。ただ、今回は被害者が多く、弁護側が独自に精神鑑定を請求する可能性もあり、「裁判開始まで数年はかかる」(横浜地検)という。

 

 例えば、川崎市の有料老人ホームで、入所者3人をベランダから投げ落としたとして16年2月に職員が逮捕された事件でも、いまだ裁判は開かれていない。

 

「いま君は幸せか」 被害者の父親 尾野剛志さんの話

 

 起訴は当然だ。しかし私は死刑を望まない。一生かけて事件の重みを考えてほしい。

 

 裁判員裁判の被害者参加制度で被告に語りかける機会を持てるなら、私は「いま幸せか」「両親のことをどう思うか」を聞きたい。

 

 私の息子、一矢(43)は生死の境をさまよい、44日間入院した。頭髪はすっかり白くなった。今でも突然「怖い」と叫ぶことがある。

 

 私たち夫婦にとっては、厚木市内の施設で暮らす一矢を週に1回連れ出し、公園で昼食をとるのが最も幸せな時間。被告にはその姿を見て、幸せとは何かを感じ取ってほしい。

 

 園の職員時代の被告には何回か会った。好青年だった。このほど、人格障害と判断されたというが、世の中の障害者がさらに生きづらくならないか心配だ。

 

「罪の重さ感じ謝罪を 」  久保厚子会長の話

 

久保厚子・全国手をつなぐ育成会連合会長

久保厚子・全国手をつなぐ育成会連合会長

 

 容疑者には、かけがえのない命を奪った罪の重さを感じ、謝罪してほしい。事件が投げかけた影響は本当に大きかった。

 

 事件を受け厚生労働省は、都道府県に対して措置入院患者の退院後の支援計画を作ることを義務付けるよう制度改正する。

 

 しかし容疑者は精神障害ではなく、人格障害だという報道もある。措置入院と事件との因果関係は不明であり、ただ精神障害への偏見を助長しないか心配だ。

 

 また知的障害者施設でもセキュリティーを強化するなど、「開かれた施設」というこれまでの流れに逆行する動きもある。

 

 本来、福祉関係者は差別のない社会づくりを訴えるべきではないか。命や尊厳に優劣はなく、多様性を認め合う。そんな社会へ向けて、歩みを止めてはならない。

 

 

 

 

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