社会福祉法人風土記<23> 鳥取こども学園 上 資金調達に独自の工夫

2017年0518 福祉新聞編集部
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子どもたちの食事風景(明治40年)

 鳥取駅から東へ1キロ強、北に天神川、西に旧袋川が流れ、両河川に挟まれた地に「鳥取こども学園」はある。敷地面積は1万平方メートル強、中央に広大な運動場があり、周囲を施設と関連機関の建物が囲む。天神川の桜並木の中、馬の背橋を渡ると正面に学園の石碑があり、創立者が最も魅了された聖書の言葉「愛はいつまでも絶えることがない」(コリントの信徒への手紙)が刻まれている。

 

創立者の尾崎信太郎

 

 創立は1906(明治39)年。日本中が日露戦争の戦勝気分に浮かれる最中に心を痛めていた男がいた。尾崎信太郎(1871~1937)だ。

 

 「鳥取市民は勝利に酔い、記念樹が植えられ凱旋門まで建てた。が、鳥取からの従軍者は1100余人にのぼり、戦死者の未亡人や遺児が巷にあふれていた。〝このまま子どもたちを見捨てられるか。やらなぁいけん〟」(九十年史)と決心、県庁裏の鳥取英和女学校跡地に「鳥取孤児院」を設立した。収容した子どもは当初は3人、翌年には70人に達し、名称も「鳥取育児院」と改称した。

 

 尾崎家は、代々続く老舗の質屋で大地主。裕福な家に生まれた信太郎は、同志社大学で新島譲の薫陶を受けクリスチャンとなり、鳥取教会設立にも尽力、伝道のため信徒として各地を奔走、キリスト教ヒューマニズムに燃えていた。

 

 この頃、敬虔な信仰を持つ章(1873~1965)と結ばれる。当時としては珍しい恋愛結婚だった。献身的な内助の功を貫いた章は、施設の子どもたちのために枕を一晩で24個も縫ったという。

 

 施設は出来たが、公的補助は皆無の時代(折々にささやかな御下賜金はあった)。経営は多難を極め、信太郎は私財を惜しみなく注ぎ込む。やがて所有していた広大な田畑は切り売りで消え、米俵で満杯だった米蔵はいつの間にか物置に化した。

 

 信太郎は施設経営維持のためさまざまな手立てを講じる。一つは機関誌『鳥城慈善新報』を月1回発行し賛助会員を募った、育児院賛助員制度の創設である。

 

 会員は千人を超えたというが、驚くのは、単なる資金集めではなく、その賛助員を募る趣旨だ。そこに彼の先駆性・先進性が見える。「貧困も犯罪も単なる個人的責任ではない、社会的な背景から必然的に生み出された性格を持つから、社会全体で責任をもたなければならぬ、しかも単純に恩恵を施すことではない」(『鳥取県郷土が誇る人物誌』)と信太郎は呼び掛けた。が、資金不足は続く。

 

 救児隊(音楽隊)を編成し、活動写真の県内外巡業を行う。市内に映画の常設館も造り、信太郎は毎日のように開演前に壇上から「浄財を! 支援を!」と訴えたという。「姫路市の楽天座で行われた救児隊の活動写真会は、立錐の余地なく入場謝絶」「到る所盛会を極めつつあり」(『因伯時報』明治43、44年)と巡業は好評を博した。

 

救児隊(音楽隊)

 

 信太郎は家で竹刀を振り、着物姿でジョギングし、身体を鍛えていたと、三男・悌之助(1910~1986)は記念誌で述懐している。が、長年の苦闘・激務が災いしたか、信太郎は病床に伏せるようになり1937(昭和12)年、66歳の生涯を終え、悌之助が後を継ぎ院長となる。

 

 子どもたちの養育は、創立当初は斎藤文太郎・里う夫妻が担い、その後を藤野竹蔵・たよめ夫妻が継ぎ、1930(昭和5)年に竹蔵の娘婿・武夫(1909~1989)・とり(1909~1983)夫妻が養育主任となっている。皆、敬虔なキリスト教徒だ。

 

 1943(昭和18)年9月10日、地震が発生。震度6、マグニチュード7・4の鳥取大地震である。院舎の大半が全半壊し子どもたちも路上に投げ出された。「凄惨極まりない、阿鼻叫喚の地獄だった」と『鳥取県震災小誌』は伝える。翌年、育児院は県庁裏の創設の地から現在地へと全面移転。「広く明るい土地で、子どもたちにのびのびさせてやりたい」という創立者の夢はこのような形で実現する。 

 

(荻原芳明)

 

 

 

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