赤い羽根新基金 どこで何に使われている?
2017年12月25日 福祉新聞編集部
中央共同募金会は昨年度、制度の対象外となっているニーズに対応する団体などに助成する赤い羽根福祉基金を立ち上げた。共同募金運動70年を記念したもので、企業を中心に寄付を募り、独自に助成している。特徴は「先駆性」と「発展性」と「広域性」。2年目の現状を追った。
「どれくらい水やればええの」「なんぼでも」ーー。大阪府豊中市の住宅街にある畑では、60~80代の男性たちが畑仕事に精を出していた。時おり笑い声も上がる。
この都市型農園は豊中市社会福祉協議会が16年度から、企業などを退職した男性の居場所づくりとして立ち上げた「豊中あぐり塾」の活動だ。現在、登録は70人。メンバーの戸谷友隆さん(75)は「ベッドタウンであるこの街には退職後に暇を持て余す男性が少なくない。何かを育てるという成果が見える活動は男性に向いている」と話す。
活動は毎週1回、集まる日以外は基本的に自由だ。今夏はナスやキュウリのほか、スイカも育てた。採れた野菜は皆で分け合うが、一部は畑で朝市を開いて販売。売り上げは次の活動に充てるなど自主採算で行っているという。
あぐり塾は今年度、同基金から先駆的な活動だと評価され500万円の助成を受けた。活動により参加者にどんな効果があるか、評価指標を作成するために使うという。「男性高齢者の居場所づくりは全国的な課題。客観的な効果を示して、全国で活動を広げたい」と勝部麗子・同社協福祉推進室長は語る。今後、育てた野菜を使い、カレーや焼酎などの製品開発も検討する。販売まで行う6次産業化も検討している。
勝部室長は「農業をきっかけにアクティブな高齢者が増えれば地域は変わる。地域の生活支援の担い手としても出番は多く、役割は大きい」と話す。
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助成金により福祉制度の狭間の問題を解決する団体もある。
900万円の助成を受けた滋賀県の高島市社協は、「食」を切り口に、さまざまな専門職が協力してアウトリーチする事業を始めた。
社会福祉士や弁護士、ケアマネジャーなどで結成する「まるごとキャラバン隊」がイベントでクレープを販売。住民と専門職が顔の見える関係づくりを目指すのが目的だが、「会議で顔を合わせるより、専門職同士のつながりが強まるという効果も大きい」(杉島隆・同市社協係長)。
人口5万人の高島市では過疎化も進んでおり、10年前から住民による見守り体制づくりを模索してきた。合併前の旧6町村ごとに民生委員やボランティアなどを住民福祉協議会として組織化。空き家を活用した居場所づくりを行うなど、下地もあった。
キャラバン隊の活動はこれまで12回ほど行った。河野みゆき・同市社協課長は「キャラバン隊は住民ネットワークでは解決できない課題を拾い、解決に導く。また、赤い羽根キッチンカーが街を走ることによる宣伝効果も大きい」と話す。
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全国団体の動きもある。
全国救護施設協議会(大西豊美会長)は、助成金を活用し、精神障害者が地域で自立して生活するにはどんな体制が必要か調査研究を行う。
現在、全国の救護施設181カ所には1万7000人の利用者がいる。このうち地域移行する退所者は年間1000人で、約3割に精神障害があるという。
調査は、こうした退所者の現在の暮らしぶりについて会員の救護施設に聞く。その上で、自立生活にはどんな社会資源が必要なのか研究する。
9月末には、研究者も参加する委員会を立ち上げ、本格的に始動した。大西会長は「最後のとりでと言われた救護施設も、これからは地域での支援を展開することが求められる。調査は大きな一歩だ」と話している。
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福祉基金の規模は5億円に上る。(株)福祉保険サービスや、(株)カインズサービス、パラマウントベッド(株)など企業からの寄付や、遺贈、個人からの寄付により成り立っている。
有識者などによる審査委員会の審査を通過すると、団体に年間上限1000万円が最大3年間助成される。人件費に使えるのも特徴だ。
中央共同募金会の佐川良江・基金事業部長は「これまで共同募金ではできなかった県の枠組みを越えた活動も支援できる。先駆的な取り組みを集中的に支援したい」と話す。
17年度は207件の応募があり、10件が採択された。前年度からの継続助成19件を含めると、助成決定額は1億7284万円に上る。今後も共同募金会は企業などへの寄付を呼び掛け、規模拡大を目指す。18年度の募集は18年1月24日が締め切り。
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