札幌の共同住宅火災 背景に受け皿の少なさ
2018年02月15日 福祉新聞編集部
札幌市の共同住宅「そしあるハイム」で起きた火災。低所得高齢者が住む建物の悲劇はこれまでも複数起きている。こうした背景には、受け皿の少なさや、適切な支援が行われていない実態もあると関係者は指摘する。
2009年、NPO法人「彩経会」が群馬県内で運営する無届け施設「静養ホームたまゆら」の火事で、10人が死亡。半数以上は東京都墨田区が紹介した生活保護受給者だった。15年には川崎市の簡易宿泊所「吉田屋」など2棟が全焼し、11人が亡くなった。
厚生労働省によると、生活保護受給者などが入る法的位置付けのない施設は15年時点で全国に1236カ所。また無料低額宿泊所は537カ所ある。
こうした施設には基本的にスプリンクラーの設置義務はない。また、中にはいわゆる貧困ビジネスを行う悪質事業者もいるなど支援の質にバラツキがある。
行政との関係
なんもさサポートが運営するそしあるハイムは食事を出しており、有料老人ホームに該当する疑いも出ている。厚労省によると、無届け施設が無料低額宿泊所と有料老人ホームのどちらになるかは自治体の判断だという。
「なんもさの評判は悪くなかったのに」と話すのは札幌市内にある救護施設の施設長だ。自立支援する中で、利用者をなんもさの施設に移行させたことがあるという。「協力関係に近い団体」と語る。
しかし、「設備が不十分なのは札幌市も分かっていたはず」との声もある。「表向きに、なんもさは消防法上スプリンクラーの設置が不要な下宿だと主張していた。低所得高齢者の受け皿がない中で、深く追及できなかったのでは」と推測する。
足りない受け皿
札幌市では、最後のとりでと言われる救護施設がすべての困窮者を受け入れられないのが実情だ。市内に4カ所ある救護施設の総定員は450人。一方、法的位置付けのない施設は195カ所あり、2300人以上が入所するという。
だが、そもそも救護施設4カ所は定員割れしている。この状況について全国救護施設協議会の大西豊美会長は「養護老人ホームも含め、行政の措置控えは全国的な傾向ではないか」と話す。
札幌市の場合、救護施設に1人入所すると、措置費は約21万円。無届け施設などの場合だと保護費の約12万円になる。
大西会長は「行政は財政を優先するあまり、結果的に無届け施設などを選択してしまうのでは」と指摘する。
低所得高齢者の住居
社福が在宅支援も
近年は住まいのない低所得高齢者を社会福祉法人が支える取り組みも出てきた。
京都市では、京都市老人福祉施設協議会に加盟する社会福祉法人が連携。エリアごとに不動産業者と組んで空き部屋をマッチングし、見守りもしている。
また岩手県では、養護老人ホームを経営する社会福祉法人が空き家を借り上げて高齢者に提供。生活支援もセットで行っている。
ただ、こうした低所得高齢者へ適切なケースワークが行われているかどうかは、地域ごとにバラツキがあるのが実態だ。
大西会長は「全国の自治体は地域の実情や、困窮者の心身の状況に応じて、まずはきちんと救護施設に措置してほしい。それから地域移行を進めるなど、適切な支援が必要だ」と話している。
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