〈東日本大震災7年〉茨城へ転々 夫、盲導犬も亡くす

2018年0312 福祉新聞編集部
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スイミーの写真の前で三上サト子さん

 「一家団らんまで吹き飛ばされるなんて」。茨城県笠間市内のサービス付き高齢者住宅の一室で、視覚障害がある三上サト子さん(75)はため息をついた。東京電力福島第1原発事故により、ふるさと福島県南相馬市小高区を離れて7年。家族もバラバラになる中、新しい土地で前向きに生きようとしている。   

 

 サト子さんは旧・小高町(現・小高区)生まれ。地元の高校を出て、仙台市内の寿司店で修業中の同郷の定晴さんと結婚、男児2人を授かった。小高で一番早く寿司店を開き、順調に人生を歩んでいるさなか、ベーチェット病と診断される。3年ほど入院治療したが1974年に光を失った。

 

 「店に座っていればいいよ」と夫は気遣ってくれた。しかし、小学生だった息子たちに「母親の働く姿を見せなければ」と意を決して宮城県立盲学校(仙台市)へ入学。ときに35歳。寮生活も許され、3年後に卒業し鍼しん灸きゅう・マッサージ師の資格を得て、小高の自宅で開業した。頑張り屋である。

 

 一方、定晴さんは97年、脳内出血で倒れ右半身にマヒが残った。在宅でサト子さんはリハビリなどできる限りを尽くしたが2008年、介護疲れからサト子さんが心房細動で入院、それを契機に夫は隣の浪江町にある老人保健施設へと移った。

 

 寿司店は調理師の長男と妻に託した。2人の孫(小中学生)、そして2頭目の盲導犬「スイミー」(アイメイト協会貸与)と穏やな日々を送っていた。11年3月11日の「あの日」までは。

 

 「カラスが異様に鳴き騒ぎ、海岸から3キロほどあるのに津波で水が溝を伝って床下まで逆流してきた」。家にいたサト子さんは丈夫な柱の脇にスイミーと身をかがめた。長男夫婦は外出、孫たちは小中学校にいたが、幸いみな無事だった。

 

 しかし、約15キロ先の原発の爆発(12日)で浜通り地区では一斉に避難が始まった。南相馬市内の小学校体育館を皮切りに、福島県・須賀川アリーナ、次男(調理師)のいた埼玉県朝霞市、兄夫婦の避難先の東京、親類の住む栃木県鹿沼市と5年間に6カ所を転々とせざるを得なかった。

 

 定晴さんも全町避難の浪江町から南相馬市内の介護施設へ転院。肺炎を繰り返し、1年半後、須賀川市内の病院で亡くなった。74歳だった。

 

 ストレスで弱ったのはスイミーも同じだった。体育館は「まるで人間缶詰め状態」(サト子さん)。「犬がいなければ、もう一人座れるのに」といった心ない言葉に傷ついた。それでも親切な人はいる。支援物資の配給時、「もう一人いたべ。これ持ってけ」「ほれ、赤ん坊の分さ」と弁当などをスイミーのために分けてくれたという。

 

 「校庭に止めた長男のライトバンに5日間、スイミーを寝かせた。寒いのに。そのせいか体調を崩し、仕方なく震災4カ月後に協会へ預けた。7年連れ添ったのに何もしてやれなかった。一番の被害者です。『ごめんね』と謝りたい」

 

 リタイヤ後のスイミーは茨城県内のボランティアに引き取られ、鹿沼で一度会った。「1頭目の盲導犬とは違い、スイミーは尾を垂れ、やや下向き加減で、内気そうな性格でした」。13年、卵巣がんで死んだ。
 小高は2年前、政府の避難指示が解かれた。しかし、放射能や子どもの再転校への心配ゆえ、長男一家は福島県郡山市にとどまっている。単身のサト子さんは寂しさから、携帯依存症になり、電話代が5万円を超えた月もあった。その苦しみを日本盲人会連合(東京)の「震災語り部」として静岡県、茨城県などで講演してきた。「できたら小高へ戻りたい。でも、今のままでは無理です」。

 

 今住んでいるサ高住は、笠間市社会福祉協議会の知人を介して2年前に入った。動物は飼えない決まり。市の同行援護サービス(最高月50時間)が頼りだ。「行動範囲は狭まった」と残念そう。それでも入居者と食堂などでおしゃべりを楽しみ、2月からは週1回デイサービスへ通い出した。

 

 「私の目の代わりになって、気を遣った世話をしてくれる仲間もできた。国や東電は無責任だし、『福島の人は慰謝料をもらってるだろう』と聞かれもするけど、なじんで生きていきます」と自らに言い聞かせるように笑みを浮かべた。 

 

 

 

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