利用者、職員、法人に三方良し じっくり準備し機器導入(特養清明庵)
2018年06月27日 福祉新聞編集部
札幌市北区の特別養護老人ホーム「清明庵」(山口匡彦施設長)は、2010年から5年計画でリフトや調整機能付き車いすなどの導入を始めた。導入から1年半の全く使われない時期を経て、今では移乗、姿勢保持、入浴、看取りなどさまざまなケアに機器を活用。機器は清明庵のケアを大きく変え、利用者、職員、法人に〝三方良し〟の効果をもたらしている。
社会福祉法人翔陽会(一岡義章理事長)が運営する清明庵(定員80人)は、一岡理事長と山口施設長が、自分たちが入ることを考え「熱燗が飲める施設をつくろう」と、04年に開所したユニット型施設。飲酒・喫煙が自由にでき、普段から好きな飲み物を飲めるようにするなど、習慣や嗜好など個々の歴史を尊重したケアをしている。
機器を導入したきっかけは、08年に山口施設長が日本ユニットケア推進センターの研修会で市川洌・福祉技術研究所(株)代表と、積極的に機器を活用している鳥取県の特養ホーム「ゆうらく」の山野良夫理事長の話を聞いたこと。
「リフトを使えば、体重の重い自分でも容易に移乗できる。腰痛で仕事を休んだり、辞めたりする職員も減らせる」。そう考えた山口施設長は、10年4月に運営部管理職、作業療法士、相談員、介護職員からなる福祉機器研究会を設置。市川代表と2カ月に1回来所・指導してもらうコンサル契約を結び、10月にはリフトや移乗ボード、調整機能付き車いすなどを購入した。
ところが、せっかく買った機器は会議室に置かれたまま。研究会メンバーが試用したり、市川代表の来所時に研修で使ったりしたが、実際のケアに使うまでには至らなかった。研究会メンバーの板橋まどか・運営部課長は「当時の平均要介護度は3・3。一部介助すれば移乗できる人が多く、機器の必要性を感じなかった」と振り返る。5年計画で機器活用を考えていた山口施設長は「職員がやる気にならないとうまくいかない」と考え、機が熟するのを待った。
その後、研究会メンバーは研修などを通じ、機器を使う大切さを理解し、実際の使用方法を習得。11年4月、全職員がリフトや移乗ボードを使えるようにするためのマニュアルと試験問題を作り、12年2月から試験を始め、4月から1ユニットをモデルにリフトを使い始めた。機器を購入してから実際に使うまでには1年半かかった。
介護職が車いす調整
現在使用している機器は、(株)モリトーの床走行式リフト5台、明電興産(株)の浴室用リフト3台、調整機能付き車いす38台、エアマットレス12台などで総額1500万円かけて整備した。また、研究会メンバーに福祉用具プランナー資格を取得させるなどソフト面にもお金をかけた。
機器購入から8年。利用者の平均要介護度も4・1に上がった。移乗ケアでは20人がリフト、10人がボードを使うなど人力による抱え上げをせず、個々の残存機能を生かした移乗ケアは当たり前になった。研究会メンバーが個々の身体状況や希望に応じ、調整機能付き車いすを調整することも日常業務になった。
リフトやボードの活用により、移乗・入浴ケア時の転倒、打撲や表皮剥離などの事故は皆無になり、看取り期にも安楽に入浴させられるようになった。腰痛で休退職する職員もいなくなり、出産後に復職する職員が増えた。
個々に合った調整機能付き車いすを使うことで、1人で食事できるようになったり、自走できたりするようになった利用者も多い。
また、エアマットレスは、褥瘡発症をゼロにし、看取りケアに役立っている。
「8年前は要介護度も低く、危機感がなかった。今は機器があって本当に良かった」と話す板橋課長。機器の導入で利用者の自立度が向上し、生活が豊かになったと喜ぶ。
山口施設長は「機器は利用者だけでなく、職員の腰痛防止や負担軽減、法人経営にも役立っている」と話す。実際、職員の定着率は良くなり、看取り率の改善に伴いベッド稼働率が97%になるなど良い効果が出ているという。
個々の歴史を尊重した個別ケアに加え、機器を活用した質の高いケアを提供する清明庵。そのケアを見れば、施設入所希望者の誰もが「住みたい」と思うことだろう。
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