社会福祉法人風土記<38>阪南福祉事業会 下 卒園後もわが家 憩える工夫

2018年0720 福祉新聞編集部
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中庭に水やりする長野博子氏

 「大きいことはいいことだ」という価値観が戦後長く日本社会に居座っていた。児童養護施設もそう。一つ屋根の下で何十人もの子どもたちが集団生活をする形が一般的だった。

 

 21世紀に入るころから「小さいことがいいことだ」に変わった。定員170人という大阪府内でも有数の大舎制施設だった岸和田学園も、分園を重ねて、より子どもと身近に寄り添える小規模ユニット型に変わった。

 

 「2008年に完成した『あおぞら』(66人)が第1号で、昨年『あんだんて』(24人)、今年『あにまあと』(30人)がそれぞれ新築され、それに地域小規模グループホーム4カ所(24人)を併せて、岸和田学園が小分けされました」と説明するのは、阪南福祉事業会の永野孝男理事長(73)だ。

 

 「単に住まいを小規模にして個室にしたというだけではない。施設内に緑とアートを取り入れて明るく居心地の良い空間づくりを目指しました」

 

 なるほど、中庭には色とりどりの草花が咲き、心がなごみ癒やされる。そこで水やりをしていたのが岸和田学園など勤務46年という長野博子(75)。8年前には瑞宝単光章を受章したベテランだ。リタイア後も草花の世話を日課にしている。

 

 

貝塚市三ヶ山の施設全景

 

 「親の貧困、蒸発、虐待でここに来た子どもたちが、入学式や卒業式に親の代わりに出席してと私を指名してくれたのがうれしかった。この仕事の醍醐味は卒園後も会いに来てくれる子が多いこと。20年ぶりに会った男の子は『おばちゃん、まだ生きてたん?』と言うから、『まだまだ、人生は80歳からやで』と言い返しましてん」と、いかにも関西漫才風なやりとりが楽しげに飛び交う。

 

 今年新築され分園したばかりの「あにまあと」には、子どもたちの居心地を最大限に考慮したデザインが随所にあるという。理事長の妻、永野良子施設長(64)が案内する。

 

 「2階建て吹き抜けで一体感をもたらした」「わざと死角を作って〝隠れ家〟にした」「踊り場を仲間で集まれるセカンドリビングにした」「相談室には誰にも合わずに外の階段から直接入れるようにした」ーー

 

 ここをわが住まいとして憩える工夫が施されている。卒園後もわが故郷だと思ってもらえるような仕掛けもある。毎年正月「元日はおせち、2日がトンカツ、3日がカニチリ」を長い間変わらぬルーチンにしている。卒園生もたくさん帰って来て、在園中と同じことを毎年しているのに気付くと故郷意識、実家感覚が刺激されるらしい。

 

 施設との絆を強くしている代表格は、大衆演劇の女形スターとして活躍中の門戸竜二(49)だ。両親の蒸発で、きょうだい5人が施設で育った。竜二は小学5年から中学卒業まで岸和田学園にいた。いろいろな職業を経験したが、見る人を感動させる役者の道が忘れられず日本舞踊を習い大衆演劇の道を歩んだ。今年は大先輩の梅沢富美男公演に招かれ、妖艶な女形競演で客席を沸かした。

 

 施設時代に世話になった良子施設長から頼まれた。「子どもたちに、生きていていいんだよ、人生の主役は自分自身だから、という自己肯定感を持たせるには演劇セラピーが効果的。子どもたち一人ひとりにスポットライトを浴びさせたい。その手伝いを」と。 

 

 落語、だんじり太鼓、手品、バトンなどそれぞれが出し物を舞台で見せる夏恒例「にじいろ〝夢〟コンサート」に門戸竜二は快く協力、今年8月も子どもたちと共演する。チャリティー公演も行い、卒園者の成人、結婚、再就職などの節目に金銭援助するための「にじいろ〝夢〟基金」にも積極的に応援している。

 

 さて、長時間保育に道を開いた阪南福祉事業会には他にも日本初がある。1998(平成10)年に全国第1号で開設した「児童家庭支援センター」がそれ。近年増加する児童虐待、不登校、発達障害という現実にどう対処するか、その予防とケアをバックアップするのが狙いの専門機関だ。

 

 もう一つ、時代の波に積極的に取り組んだのは、2002(平成14)年に開設した「情緒障害児短期治療施設あゆみの丘」(大阪府貝塚市)。いわゆる障害児施設ではなく、虐待を受けるなど、いろいろな原因で自分に自信が持てなくなったり、人とうまく関われなくなった幼児から高校生のための治療・療育の場だ。現在は小学2年生から高校3年生まで45人がここで生活している。虐待にあった、いじめられた、などのトラウマに苦しむ子が入所している。

 

 生きづらさに苦しむ子どもたちと真正面に向き合う、難しいが大切な仕事。白土隆司施設長(72)は「自尊心や自己肯定感が弱い子が多いので、まず自信を持ってもらう。そのためには何かできたらほめる。その繰り返し。社会的なスキル、例えば指示に従う、大人の助けを求める、適切に自分に注意を引くなどを徐々に積み上げていく。生活指導員、社会福祉士、保育士、臨床心理士などスタッフは29人いて、朝会などでケーススタディを報告しています」と児童心理治療の難しさとやりがいを口にする。

 

 年間10万件を超えた虐待事案と、年々増えていく発達障害に苦しむ子の数。現代社会の特徴といわれる〝心の奥〟を解明し光を与える処方箋はあるのか。ここでも模索が続く。

 

【網谷隆司郎】

 

 

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