〈児相改革〉1 専門性の向上がカギ 津崎哲郎氏

2018年0730 福祉新聞編集部
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津崎哲郎・大阪児童福祉事業協会理事長

 今年3月、東京都目黒区で5歳の女児が両親に虐待され亡くなった。事件を受け、国は緊急総合対策として、児童相談所の体制強化などを進める方針を掲げている。昨年8月に厚生働省が示した「新しい社会的養育ビジョン」以降、児童福祉は新たな転換期を迎えているようにもみえる。識者や現場の意見を聞いた。(3回の連載です)

 

 

 国は今後、児童福祉司を2000人増やすことを決めました。これまでいくら訴えても実現しなかったことですので、大いに評価すべきことです。ただ、そもそも現状の行政の組織体系で専門的な支援ができるかというと疑問です。

 

 児童福祉司として、それなりのケース判断ができ、専門的対応もできるようになるには5~10年はかかります。しかし、5年以上も児相にいる職員はまれで、ほとんどが3~5年ほどで異動になります。これでは児相が組織としての専門性をキープできません。

 

 国は児童福祉司の専門性を上げようと、研修を強化していますが、人事権が自治体にある以上、どうにもなりません。行政組織には幅広い知識と経験がある人が出世するという不文律があります。特定の部署にずっといる職員は偏りがあって、いびつな人材と見なされます。そうした人事評価の仕組みにメスを入れない限り、児相の専門性は上がらないと思いますね。

 

 今回の目黒区で起きた事件も、要は品川児相にケースの緊急性を見立てる力がなかったということでしょう。本来は香川県児相からの情報を元に「これは危険だ」と、ボルテージを上げないといけなかった。それを1カ月以上も会わずに放置したのは品川児相の落ち度です。これは職員の人数が足りていないこととは直接関係ありません。

 

 また、国は児相に対して、虐待通告があったら48時間以内に子どもの安全確認を行うことをさらに徹底する方針です。

 

 この安全確認の方針は、京都府長岡京市で2006年に起きた幼児虐待死事件を受けて始まりました。それまでは介入前に関係機関や地域から情報収集をして、その家庭に合った支援を模索することが可能でした。

 

 しかし、今は突撃訪問するのが実態です。そうすると保護者は当然「誰が通報したんだ」と怒るわけです。近隣住民への不信感も生まれ、地域からますます孤立します。

 

 だからこそ、今後はもっと児相が民間との連携を進め、継続的に支援する仕組みをつくる必要があると思います。民生委員や保育所、学校、社会福祉法人などさまざまな人々が協働し、地域で包括的に支えるのです。家族再統合に向けたプログラムをきちんと整備すべきでしょう。

 

 孤立防止に向けて、公益性の高い社会福祉法人がやれることはたくさんあると思います。既に福岡市では、休日や夜間に泣き声での虐待通告があった際、民間委託の訪問員が駆けつける仕組みもあります。

 

 児童福祉は個人情報保護の壁も高く、なかなか民間との連携が進みませんでした。しかし、今は刑務所だって民間事業者が運営する時代。児童福祉の分野でももっと民間による専門的支援を進めることは現実的に可能でしょう。

 

 

 

【つざきてつろう】大阪児童福祉事業協会理事長
 1944年生まれ。大阪市立大卒業後、大阪市に入庁。同中央児相所長を経て、花園大や関西大の教授として勤務。厚生労働省の審議会委員や、日本子ども虐待防止学会副会長を歴任した。現在、全国里親会副会長や児童虐待防止協会理事長も務める。

 

 

 

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