〈児相改革〉2 社会福祉法人の機能活用を 辻村泰範氏

2018年0731 福祉新聞編集部
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辻村泰範・宝山寺福祉事業団理事長

 今年3月、東京都目黒区で5歳の女児が両親に虐待され亡くなった。事件を受け、国は緊急総合対策として、児童相談所の体制強化などを進める方針を掲げている。昨年8月に厚生働省が示した「新しい社会的養育ビジョン」以降、児童福祉は新たな転換期を迎えているようにもみえる。識者や現場の意見を聞いた。(3回の連載です)

 

 

 

 ずいぶん前の話になりますが、当法人の乳児院から児童養護施設に上がったばかりの子どもを家庭に戻したところ、1カ月以内に白い骨箱に入って帰ってきたことがありました。担当者は児相に対して「戻すにはまだ早い」と主張したようですが、家庭復帰が優先されたようです。今でも思い出すだけで心が苦しくなります。

 

 児童養護施設や乳児院は措置施設です。児相の権限は大きく、決して対等な関係ではありません。それなのに児相の職員は定期の人事異動で突然担当になり、3年ほどでまた異動していくのが実態です。これでは組織として専門性は上がりません。

 

 一方で、1人の児童福祉司が抱える担当件数は多く、疲弊しているとも感じます。だから児相の人員増には大いに賛成します。

 

 今後は児相がもっと社会福祉法人を活用してほしいと思いますね。例えば、地域で虐待されている子どもがいても、乳児院や児童養護施設は直接支援できません。また、施設を退所して家庭に戻った子どもと関わることもあまりないのが現状です。

 

 社会福祉法人が専門的機能を持って、地域と連携しながらその家庭を見守るということがあってもいいのかもしれません。児相だけですべて解決するのではなく、社会福祉法人が持つ経験や実績、技術、知識などのソフト機能を活用してもらいたいのです。

 

 昨年夏に厚生労働省の検討会が出した「新しい社会的養育ビジョン」以降、児童福祉をめぐる状況は大きく変わろうとしています。就学前の子どもの里親委託率を75%にするという数値目標が掲げられ、各地で施設入所を控えなければならないというムードが広がっているのではないでしょうか。

 

 しかし、家庭養護の推進も社会福祉法人なしではできません。現状でも乳児院は、里親希望者の不安や悩みに寄り添い、あらゆるサポートをしています。幸い、奈良県には里親になることを推奨している天理教があります。多くのベテランの里親がいて、孤立しないよう助け合う仕組みもできていますが、他の地域はどうでしょう。

 

 児童福祉の現状を考えると、高齢者分野の介護保険前夜のようです。当時、厚生官僚が全国を回り「世界に冠たる日本の措置制度は、社会の変化に対応して保険の仕組みに変えなければならない。それでも必要な人への措置の仕組みは残す」と力説していたのを今でも覚えています。

 

 しかし今や養護老人ホームでは、自治体が予算を抑えるために高齢者を回さない措置控えが起きています。

 

 今後、里親を増やすのは良いことですが、同時に施設機能が縮小されるのであれば取り返しのつかないことになると思います。

 

 夜中の緊急受け入れなど法人として行うからこそ、きちんと支援の質を担保した対応ができる。施設の負の面ばかり批判するのではなく、もっと社会福祉法人の公益性を生かしてほしいと思います。

 

 

【つじむらたいはん】社会福祉法人宝山寺福祉事業団理事長
 1947年生まれ。京都大大学院卒業後、同法人就職。99年から現職。現在、児童養護施設、乳児院、保育所、児童発達支援センター、特養ホームなど約20事業所を経営。奈良県社会福祉法人経営者協議会長も務める。宗教法人大乗滝寺の住職でもある。

 

 

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