引きこもり〈中〉「救済」から「生きる支援」へ 障壁なくし、良き隣人に

2019年1023 福祉新聞編集部
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ふりこめ詐欺に注意するよう漫才で呼び掛けるキラーコンテンツの和出さん(右)と長谷川さん

 引きこもりは日常の姿の一つに過ぎません。「引きこもり」と認識されたからといって、固有の支援策があるわけでもありません。また、引きこもり状態から脱しても、生きづらさを抱える人はたくさんいます。人と人が出会う場や、困ったときにSOSを出しやすい雰囲気をつくることは引きこもりの人に限らず、誰にとっても大切です。そうした営みは、そもそも福祉の活動に溶け込んでいます。 

 

 

 「引きこもりは私にとって、ストレスの少ない居場所でした」。一般社団法人漫才協会所属の漫才師「キラーコンテンツ」の長谷川崇さん(35)は8月31日、横浜市旭区主催の講演会で語った。

 

 生活困窮者自立支援制度を、若い世代にも知ってもらうのが狙いだ。同区生活支援課の担当者が、いじめ、不登校、引きこもりを経験した長谷川さんと、相方・和出仁さん(44)の魅力に目をつけた。

 

 漫才で約300人の会場を沸かせた後、生い立ちを語る長谷川さん。2歳で母を亡くし、仕事で多忙な父と話すことも少なかった。祖父母と一緒に暮らすものの「いつも孤独だった」と振り返る。

 

 高校は中退。お笑い芸人養成所で出会った和出さんが、父親代わりになって遊びに付き合ってくれた。

 

 社会福祉協議会で働いたこともある和出さんは、長谷川さんについて「笑いのセンスは抜群だが、社会性を身に着けさせるのに7年かかった」と明かす。

 

 同区の担当者は言う。「家族ではない和出さんのような第三者がかかわることが大切だ。ゴールの見えない相談が多いが、相談しやすい環境をつくりたくてお二人に来てもらった」。

 

 

 

新保教授(立つ人)の司会で生活困窮者支援について話し合った

 

 

 2015年度に始まった生活困窮者自立支援制度は、引きこもりもその対象とする。「困窮者の自立支援だけでなく、困ったときに助け合える地域をつくることも狙い」(キラーコンテンツと対談した新保美香・明治学院大教授)だ。

 

 キラーコンテンツはその地域づくりにもひと肌脱ぐ。横浜市鶴見区内で18年1月から12月まで計12回、住民向けの連続講座「ひきこもるということ」で講師を務めた。

 

 主催は東寺尾地域ケアプラザ。地域包括支援センターや通所介護事業所などがある複合施設だ。高齢者介護施設と思われがちだが、子育て、障害福祉など生活課題全般に関係した講座を開く地域交流部門も持つ。

 

 横浜市独自の仕組みで、人や情報が集まりやすい。地域交流の担当者は「引きこもりの人がいるという情報はよく寄せられる。地域でできることを考えるきっかけとして、漫才がいいのではと考えた」と明かす。

 

 狙いは当たった。講座の一部は動画投稿サイト「ユーチューブ」にアップされた。参加者は回を追うごとに増え、旭区をはじめ横浜市内にその評判が広がった。

 

 今年度は中高年の引きこもりについて、行政や社協の職員、青少年支援のNPO団体代表らによる情報交換会を開催。民生委員の参加も増え、事例をもとにしたグループワークも行った。

 

 参加した民生委員の一人(59)は引きこもりについて「本人の気持ちに寄り添うことが大事であり、こちらが助けようと力まない方がいいと分かった。民生委員は実態を知るべきだ」と話す。

 

 

 

 

 こうした活動は地味で成果が見えにくいが、引きこもりの相談室「ヒューマン・スタジオ」(神奈川県藤沢市)の丸山康彦代表は高く評価する。

 

 「引きこもりの人のQOL(生活の質)を上げるには、いろいろな立場の人がかかわることが大切だ。それなしに引きこもり問題は解決しない」。

 

 例えば、引きこもりの人が「歯が痛い」「髪を切りたい」と思っても、医者や美容師との世間話、雑談が怖くて我慢する例では、「世間話をしなくて済む場をつくるのも大切な支援だ」という。

 

 引きこもり状態から「救済」する専門家ではなく、当事者の「人となり」をよく知り、良き隣人となる――。そうした緩いかかわりは、地域福祉の真骨頂だ。

 

 それでも、忍び寄る超高齢化社会には難題が待ち受ける。セルフネグレクト(自己放任)である。

 

(つづく)

 

 

福祉のハードル下げて

 

伊藤正俊さん

 

 引きこもりが社会問題として改めて注目されている。引きこもりの原因が家庭内にないとは言わないが、この機会に社会構造にも目を向けたい。 若者の自殺率の高さ、高齢者の孤独死などを見ても、今の日本には生きづらさが蔓延している。大げさな言い方をすれば戦後の歩みをきちんと総括しないといけない。

 

 私の娘が不登校だった30年前、不登校の小中学生は7万人前後だった。いま、30年前に比べて子どもの数が減っているのに不登校は14万人に増えている。不登校は子ども本人やその家庭の問題だ、という分析では不十分だろう。

 

 もう一つ強調したいのは、福祉が特別なものであってはならないということだ。福祉サービスを利用するときのハードルはまだまだ高い。世間体を気にする私たちの意識は簡単には拭えない。そうした意識のもとで引きこもりから脱け出し、働いたものの再び傷ついた人を私はたくさん見てきた。スティグマの伴う救貧的な福祉ではなく、すべての人に基本的な衣食住を保障する福祉を目指したい。

 

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いとう・まさとし
 1952年、山形県出身。同県米沢市で就労継続支援B型事業所などを運営するNPO法人から・ころセンター代表。2016年6月、NPO法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会共同代表に就任。

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