福祉の原点見つめ直す、地域支える新プロジェクト始動 熊本の慈愛園

2019年1115 福祉新聞編集部
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「きらきら」で活動する潮谷施設長(右端)、その隣が田中相談員

 熊本市にある社会福祉法人慈愛園(潮谷義子理事長)は今年で創立100周年を迎える。第1次世界大戦後に貧困や病気がまん延する中、来日したルーテル教会宣教師会が子どもや高齢者のための「ホーム」を設立したのが起源。「地域社会から孤立した人を救う」という理念を今も大切にしながら、現在は熊本県内に11施設を運営。そうした中、慈愛園はもう一度原点を見つめ直し、あるプロジェクトを立ち上げた。

 

 「では近況から教えてください」――。

 

 9月中旬、慈愛園に隣接する一軒家「きらきら」には、熊本市内の里親ら10人が集まった。慈愛園乳児ホームの潮谷佳男施設長が切り出すと、参加者が順番に話し始めた。「来週は保育園の運動会で楽しみ」「最近は言葉が分かってくれてうれしい」。次々に明るい話題が報告された。

 

 一方、障害児を受け入れる里親が「見学に行った保育園に『なんでうちなのか』と言われてしまいました」と不安を口にすると、周りの参加者が「分かる、分かる」と受け止める場面も。

 

 しばらくして慈愛園の田中一幸・里親相談員が「里親を知らない先生もいますし、保育園の運営方針はさまざま。心配なら我々が説明に行きますよ」とアドバイス。里親はほっとした表情を浮かべた。

 

 集まりは1時間ほどで終了。最後に潮谷施設長が「次回はクリスマスも近いので、七面鳥でも焼きたいですね」と話すと、笑いが起きた。その後、職員は退室し、参加者だけで昼食の時間となった。

 

独自財源で新事業

 

 慈愛園は創立100周年を迎えるにあたり、地域を支える「ワン・ピースプロジェクト」を立ち上げた。すべて独自財源で行い、この「きらきら」の活動もその一つだ。

 

 社会的養育については今後、国は里親委託率を引き上げる方針を示している。このため慈愛園は、里親や希望者など幅広く受け入れる居場所づくりを積極的に実施したい考え。それぞれのグループが活動する場としても提供する。

 

 「里親に移ると施設と関係が切れてしまうのが現状。つながりを続け、何かあれば支える場所にしたい」と潮谷施設長は話す。

 

 二つ目の柱が地域の相談窓口となる「家庭福祉相談所」だ。実は1970年代に有志の職員で行っていた取り組みで、今年度中に再事業化を目指す。

 

 専用の電話も設け、子育てや介護などの困りごとをワンストップで受け入れる。法人のソーシャルワーカーが対応する。現在、慈愛園は独居高齢者を対象にした食事会や、町内会活動をしており、そうした地域交流を通して周知する。

 

 三つ目の柱としては、来年度をめどに地域交流スペース「燦燦の家」を建設する。木造平屋で、日当たりの良い縁側もあるのが特徴で、誰でも利用できる。

 

 ボランティアや元法人職員などが運営し、お茶も提供。「さまざまな人が交流する地域の廊下のようなもの」(潮谷施設長)だという。

 

地域どう支える

 

1949年5月、昭和天皇(中央)が行幸された

 

 慈愛園がこうしたプロジェクトを立ち上げた背景には、設立当初の原点に立ち返るという思いがある。

 

 もともと慈愛園は、貧困や病気、人身売買が後を立たない日本の状況を知ったルーテル教会宣教師会が1919年に設立。初代園長のモード・パウラス氏はアメリカで寄付を集め、子どもや女性、高齢者を受け入れる小規模施設をつくり「ホーム」と名付けた。

 

1923年、宣教師館で保育をするモード氏

 

 現在、慈愛園は特別養護老人ホーム、障害者入所施設、児童養護施設、乳児院、保育園など11施設を運営。この間、独立した施設も多数ある。

 

 潮谷施設長は「共生社会などをキーワードに、社会福祉法人としてどう地域を支えるかを考えて、生まれたプロジェクト。福祉ニーズがあれば、解決に向けて動くべきという法人の理念は、今後時代が移っても守り続けたい」と話している。

 

 

「絶望」を希望に

潮谷義子・慈愛園理事長

 

 慈愛園は100年前のルーテル教会宣教師会による福祉実践がスタートです。第1次世界大戦の後で、福祉の法律も財源もなく、あるのは志だけ。人間の尊厳を否定された人を救うことこそが法人の原点です。

 

 今では多くの制度も整い、福祉に関わる支援者も増えました。ところが地域や家庭が持っていた人を支える機能は低下し、また制度の谷間に落ちるといった新たな問題も生まれているのが現実です。

 

 今も変わらない課題は「孤独と孤立」です。どんなに社会が豊かになってもなかなか解決は難しい。必要なのは寄り添う共感者であり、この支援こそ公益性の高い社会福祉法人の存在意義と言えます。

 

 ワン・ピースプロジェクトは、率先して地域課題を見つけ、汗をかく姿勢を示したものです。これからも地域を支える法人の役割は変わりません。「福祉」には絶望を希望に変える使命があると思っています。

 

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 しおたに・よしこ 

 日本社会事業大を卒業後、大分県庁、慈愛園乳児ホームなどを経て、2000年から熊本県知事を2期8年。12年から日本社会事業大理事長も務めた。80歳。

 

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