介護保険制度20年④ がんじがらめの制度に

2020年0610 福祉新聞編集部
    • このエントリーをはてなブックマークに追加
齊藤淳氏

 措置制度の時代からサービスを提供してきた立場からすると、契約制度により、利用者にサービスの内容を説明して提供することが自己責任となったことは大きな変革だった。ただ、行政が決めた枠組みの中でしかできない措置制度は改めるべきだと思っていた。

 

 しかし、行政の枠組みから抜け出たはずなのに、今は介護保険の細かい基準にがんじがらめになっている。

 

 例えば、介護報酬の加算には特定の専門職を配置しないと算定できないものや、一定の会議を開かないと減算されるものがあるが、そうした「しばり」から質の高い介護は生まれにくい。基本は利用者に自立に向けた必要なサービスを提供して喜んでもらうことだ。報酬がほしいがために加算を算定しているような現況は、本来の在り方からずれている。

 

 介護保険ができてソーシャルワークは後退してしまった。生きづらさを抱える人や孤立している人などに対応できていない。公私の役割分担がうまくいっていないせいなのか、介護サービスの整備が進んだ割に、社会保障の基盤は確立していない。

 

 ケアマネジメントは、本来は社会資源を活用して援助するものだが、ケアプランを作成したり、介護保険の給付管理をしたりすることがメインになりがちだ。地域包括支援センターには困難事例が挙がっているのに対応できていない。高齢者に限定せず、広く地域の困っている人を支える仕組みが必要だ。

 

 20年の間に男性職員の割合が増え、職員の高齢化も進んだ。産休、育休は当たり前で男性の取得も奨励され、働き方の転換期になっている。

 

 人材不足が深刻化しているが、よく言われる「4K」が原因ではない。20年前は職員募集に多くの応募があったが、2008(平成20)年ごろから、サービス付き高齢者住宅や有料老人ホームが増えたことで、人材の取り合いになったと感じる。

 

 事業が拡大することで、職場のポストの数も変わり、キャリアアップの道筋がつくられてきた。口腔ケアなど介護のスペシャリストの育成は進んだが、今は所属する部門の採算の管理ができるゼネラリストの人材が必要になった。

 

 特別養護老人ホームは、15(平成27)年4月から新規入所が原則要介護3以上になったこともあり、利用者が重度化している。研修を受ければ喀痰吸引や経管栄養ができるようになったが、今後、どこまで医療を担うことになるのか。

 

 また、看取りが当たり前になり、グリーフケアや職員の精神的負担への配慮も必要になった。現場にはさまざまなICT(情報通信技術)や介護機器が普及し、省力化が図られるようになったことも大きな変化だ。

 

 在宅サービスは、マンネリ化している印象を受ける。課題が見えにくく、マネジメント機能が働きにくい。

 

 05(平成17)年に介護予防・日常生活支援総合事業が創設されたが、予防を介護保険に入れたのは間違いだ。医療保険でも病気の予防は入っていないし、老人保健制度などでカバーしてきたことだ。

 

 介護保険が創設され、介護は社会連帯で担うという良いメッセージになった。ただ、以前に比べて、人と人の心のやりとりが薄くなったと感じる。介護の原点は人ありきだ。そうした面にも焦点を当て評価する仕組みがほしい。地域ぐるみで介護していく視点も大事になる。

プロフィール

 齊藤淳(さいとう・じゅん) 1960年生まれ。出版社勤務などを経て、2004年に楽晴会理事長に就任。青森、宮城、東京の3都県で、高齢、障害合わせて計56事業所を運営する。職員は約650人。青森県地域包括・在宅介護支援センター協議会副会長なども務める。

[視点]複雑になる制度

 20年の間に介護保険法は5回改正され、介護報酬は6度改定(期中改定除く)された。制度の持続性を確保することを主眼に、改良が加えられたり、新しい仕組みが導入されたり、多くの見直しが行われ、一定の成果は積み上げられてきた。

 

 一方で、法改正や報酬改定が行われるたびに、制度は複雑になっていった。介護従事者でさえ細部まで理解しておくことは難しく、利用者にはもっと分かりにくくなってしまった。

 

 制度が込み入ったものになることで、自治体や介護事業者の事務負担も増えた。現場の介護職員も事務作業に時間をとられがちで、利用者に十分に向き合えないといった状況も生まれた。

 

 そのため、介護にかかる文書を簡素化する取り組みや、業務を切り分けて介護職員は専門的な業務を行い、清掃や洗濯などは介護助手に担ってもらう方策も進められている。

 

関連記事

介護保険制度20年① 自立支援は発展途上

介護保険制度20年② 「社会保険しかなかった」立案に関わった元官僚

介護保険制度20年③ 介護保険で薄れた福祉の理念

介護保険制度20年④ がんじがらめの制度に

    • このエントリーをはてなブックマークに追加