「就労者は補助対象外」 異例の改正で精神障害者の作業所に動揺(横浜)

2020年0702 福祉新聞編集部
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アクセサリー作りに励むピネル工房の利用者ら

 就労した障害者は作業所に通えなくなるのか――。横浜市が今年4月、地域活動支援センター(精神障害者地域作業所型)の実施要綱を改正し、補助金の交付対象の要件に「就労していない人」を追加した。働く精神障害者は対象外とする内容で、現場は動揺。市は対象外になる人はほとんどないとするが、専門家はセンターの守備範囲を狭める異例の改正とみる。

 

 「もしここに来なければ、私は仕事を続けられなかっただろう」。地域活動支援センター「ピネル工房」(緑区)に通う山口栄二さん(38)はこう話す。19歳で統合失調症になり、20歳から工房に通う。

 

 8年前からは会社勤めを開始した。週3日、清掃の仕事に励む。気持ちが沈みがちだが、家にこもるのは嫌い。そんな自分が仕事のない日にリフレッシュできる場が工房だという。

 

 地域活動支援センターは「創作的活動」「生産活動」「社会との交流」を行う場。気分の浮き沈みのある精神障害者の場合、作業すること以上に「安心できる居場所」を持つことが重要だとされてきた。

就労後こそ必要

 近年、精神障害者の雇用は伸びているが、就職した後の定着率は低い=グラフ参照。「環境が変化した就職後こそセンターのような居場所が必要」(ピネル工房の島中祐子施設長)という。

 

就職1年後の職場定着率は49・3%で、身体障害者、知的障害者と比べて低い

 

精神障害者の就職件数は10年間で約5倍に増えた(出典=いずれも厚生労働省発表資料)

 

 

 しかし、事態は急変した。横浜市は補助対象とする人の要件を「横浜市内居住の精神障害者」としてきたが、改正後の要綱には「就労していない人」を追加。就労している人は補助対象外という原則を掲げつつ、個別の協議次第では補助対象にするとした。

 

 センターを運営する側には動揺が広がった。センターに通いながら働く人は利用登録者全体の1割ほどで決して多くはない。しかし、補助対象外となれば通うことをためらい、体調を崩す人が出ると職員たちは懸念している。

 

 そこで、市内に60カ所あるセンターのうち約半数は6月8日、連名で林文子市長宛てに要望書を提出。追加要件の削除を求めた。

 

 要望団体の一つ、「NPO法人精神保健を考える会まいんどくらぶ」(港北区)の林洋子事務局長は、「市からは事前に何も知らされていない」とし、今後も話し合いをしたいと申し入れた。

 

 市は説明不足を認めた上で「ここで言う就労の目安は1日6時間以上を週4日以上働くこと。これに当たる人は少ない。補助対象者を狭くする意図はない」(障害施設サービス課)と表明。新要件を削除はしないが、センター側との話し合いには応じる構えだ。

 

 市の説明通りならば冒頭の山口さんは補助対象だが、この解釈は要綱には書かれていない。センター側は「市の担当者が代わればこの解釈も変わるのでは?」という不安をぬぐい切れない。

 

 精神障害者の小規模作業所長の経験を持ち、全国の事情に詳しい青木聖久・日本福祉大教授(精神保健福祉学)はこの要綱改正について「異例の改正だ。就労しながらセンターを実家のように利用しバランスをとっている人の居場所を奪うことになりかねない。他の市町村への影響も懸念される」としている。

解説

 横浜市の地域活動支援センター(精神障害者作業所型)の補助金交付額は1カ所平均で年間2000万円。その9割は市が負担する。今回の要綱改正では補助単価を約3%上げた。他市町村のセンターは補助金の手厚い横浜をうらやましがる。横浜市は改正により福祉を後退させたい訳ではない。「あいまいだったセンターの機能を明確にするため」という。成果を見えるようにしないと、この先、補助金を維持しにくいという事情もあるようだ。センター側からも「就労している人への支援の成果を見せる努力が足りなかったかもしれない」との声が漏れる。センターの果たすべき役割を改めて議論し、広く理解してもらう機会にしなければならない。

ことば

 地域活動支援センター=障害者総合支援法に規定された市町村事業の一つ。障害者が通い、軽作業やレクリエーションなどをする。利用は無料。障害者の親などが立ち上げた小規模作業所の多くが移行した。2018年10月現在、全国に2935カ所あり、利用定員は約5万人。

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