震災から11年、特養ホーム「桜の園」開所 福祉の拠点に〈福島・富岡町〉

2022年0323 福祉新聞編集部
桜の園の外観

 福島県富岡町で原発事故後初めての特別養護老人ホーム「桜の園」(定員50人)が3月18日に開所した。隣には町民の集いの場ともなる「トータルサポートセンターとみおか」が4月に開設予定。東日本大震災から11年。町民の生活基盤を支える福祉、介護、交流の拠点が始動する。

 

 両施設の敷地面積は9000平方メートル。建設費は12億6400万円。社会福祉法人光美会(常盤峻士理事長、福島県いわき市)が指定管理者として運営する。

 

 桜の園は木造平屋建てで全体的に温かみがあり、彩光にあふれている。震災の教訓から避難しやすいよう居室の間口や廊下を広くし、バリアフリーで各ユニットから外に出られる。オール電化(一部ガス対応も可能)で非常用発電機を完備。見守りセンサーやタブレットによる記録管理などICT(情報通信技術)も導入する。

 

 入所の問い合わせは50件を超えており、3月末までに約20人が入所予定。職員は約30人確保しており、サービス提供体制を整えながら徐々に受け入れを広げていく。

 

 併設の「とみおか」はフィットネスルーム、ワークショップルーム、カフェ、相談室などがあり、町民の健康増進や介護予防、交流の場として活用する。

 

打ち合わせをする(左から)鈴木業務執行理事、竹本恭太施設長、栗原さん、小川さん

 

 鈴木幸一業務執行理事は「施設の役割はつないでいく、つながっていくこと。復興に向けて町民と共創していきたい」と話す。

笑って過ごしたい

 職員の中にはこの日を特別な思いで迎えた人もいる。

 

 介護職員の小川政江さんは震災時、福島県浪江町の特養で働いていた。その特養が避難した先に応援に行き、約2週間、利用者と一緒に過ごした。当時のことを今でも思い返すと言い、「もっとやさしくできたら良かった。でも自分もギリギリだった」と悔しさで涙ぐむ。だからこそ「ここでは利用者と少しでも笑って過ごしたい」と言う。

 

 桜の園は小学校跡地に建った。その小学校の卒業生、生活相談員の栗原健太さん。光美会が参加するときわ会グループの老人保健施設で働いていたが、「地元の施設に貢献したい」と異動した。「最期は故郷で過ごしたいが、家がなくて戻れない人もいる。それならせめて故郷の施設で過ごせるよう受け皿になりたい」と話す。

 

 富岡町は現在、町の面積の9割で避難指示は解除されている。震災前の人口は約1万6000人だったが、3月1日時点で町内に住んでいる人は1846人にとどまる。高齢化率は29・4%。

 

 町内の介護保険サービスは訪問介護、通所介護、小規模多機能型居宅介護、居宅介護支援2カ所ある。今回入所の特養が開設したことで要介護者を在宅から入所まで支援できるサービスが整い、町民の交流の場もできた。

 

 山本育男町長は「施設がなくて町に戻ってこられなかった人の帰還促進につながる。福祉のシンボルになりえる」と期待を寄せる。

 

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