子供の腹痛――心因性が原因も

2022年0415 福祉新聞編集部
    • このエントリーをはてなブックマークに追加

 今からもう20年近く前になりますが、5歳と3歳のかかりつけの兄弟がいました。5歳の男の子の名前を仮に〝よっくん〟としましょう。2人のお母さんは比較的手のかかる3歳の下の子にかかりっきりでよっくんのことはあんまり相手にすることができていませんでした。

 

 ある時、よっくんが「おなかが痛い」と言って、私の外来に来ました。腹痛の原因をいろいろと調べましたが、はっきりしませんでした。当時はまだ、私は子供の消化器内視鏡検査をしたことがなかったので、どうしようか迷ったのですが、お母さんと相談して、よっくんに胃カメラの検査をすることにしました。よっくんは、検査直前まで「おなかが痛いから、歩けない」と言って、お母さんに抱っこされて病院に来ていました。

 

 しかし、周りの先生たちからは「こんな小さい子供に内視鏡するなんて」「どうせ内視鏡しても異常ないのに」というような反対の声が上がっていました。私は周囲の反対を押し切るような形でよっくんに麻酔をかけてから胃カメラをしました。結果は案の定、まったく異常がありませんでした。反対していた先生たちは、「やっぱり異常なかったじゃないか」と私を責める人もいました。

 

 よっくんが麻酔から覚めるまでの間に、私はお母さんへ胃カメラでは異常なかったこと、「痛いから歩けない」という割には診察上、まったく異常がなく、重症感がないことなどを説明し、おそらく「心因性腹痛」、いわゆる、ストレス的なものか、お母さんの関心を引きたいから「おなかが痛い」と言っている可能性があることを伝えました。

 

 そして、麻酔から覚めたよっくんに「おなかの中、痛いの何もなかったよ」と説明しました。よっくんはそれでも「おなか痛いから歩けない」と言っています。私がもう一度、おなかを診察した後に「おなか、触ったけど大丈夫だよ」と伝えると、今度は「足が痛い! 足が痛いから歩けない」と言うようになりました。お母さんは心配そうに私の顔を見ます。

 

 私は、よっくんの足を診察してから「よっくん、足も何ともないから大丈夫だよ」と言うと、お母さんに助けを求めるように視線を向けます。お母さんは私の方をちらっと見た後に「大丈夫だよ、おなかも足も何ともないって」と言うと、よっくんは突然むくっと立ち上がり、「わかったよ! もう帰る!」と歩いて診察室を出ていきました。

 

 よっくんの「おなか痛い」は、「僕ももっとお母さんに甘えたい、僕のことも心配して」というメッセージだったようです。その後、よっくんがおなかを痛がることはなくなりました。子供たちの「おなか痛い」にはいろいろなメッセージが含まれている可能性があります。それを受け取ってあげることが大切です。

 

(そごう・つよし 済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科部長)

 

福祉新聞の購読はこちら

    • このエントリーをはてなブックマークに追加