心因性失声症――専門家の受診を

2022年0422 福祉新聞編集部
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 だいぶ前のことですが、私の外来に、とある病気で受診していた4歳の女の子が「声を出さなくなった」とお母さんから相談されました。詳しく話を聞くと、お母さんが腕をケガしてしまい、抱っこができなくなったところ、声を出さなくなったとのことでした。

 

 今まで話していた子が急に一切の声を出さなくなるなんて、にわかには信じられませんでした。本人はケロッとしていて、笑顔もみられます。保育所でも声を出さないとのことでしたので、日常生活に困ればそのうち本人も観念して声を出すだろうと、私自身も高をくくっていました。「普通に話しかけていればそのうち良くなりますよ」なんて安易に答えてしまいましたが、次の外来受診のときも声を出しません。

 

 しかし、声を出さない以外は、まったく本人には異常はありません。くすぐったら、笑い声を出すだろうと思ってくすぐってみましたが、声を出しません。そんな状態が半年ほど続いたあと、元通り声が出るようになりました。

 

 ストレスや心的トラウマなどによる心の問題が原因となり、声を出すための声帯などの器官や脳などの神経に異常がないにも関わらず、声を出すことができなくなった状態のことを失声症(心因性失声症)と言います。声が出ない、話せない状態だけではなく、声が出てもかすれてしまったり、しわがれ声になってしまったりなどの状態も含みます。30歳以上の女性に多いようですが、子供でもみられる疾患です。

 

 とは言え、25年以上、小児科医をしていて、後にも先にも私が心因性失声症を経験したのはこの子だけです。私自身はそれまで、ストレスで声が出なくなるというのは、漫画の中のフィクションの世界の話だと思っていました。約40年前のデータにはなるのですが、小児での失声症の原因には、家庭内の葛藤すなわち、両親の不仲、両親の離婚、両親が厳しい、母親との感情的な争い、父親の暴力といったことが多いようです。他にも、学校への不適応、成績での悩み、会話時のどもりなどが原因となります。

 

 心因性失声症の治療には声帯刺激法、薬物療法、両耳マスキング法、麻酔を用いる方法、心理療法などがあり、耳鼻咽喉科の先生や精神科の先生の助けが必要となります。精神と肉体は互いに関連しています。それは子供でも同じです。

 

 私が経験した子は、半年ほどでお母さんのけががよくなると、声が出るようになりました。もしも、お子さんが、急に声が出なくなる状態が続くようであれば、小児科もしくは耳鼻咽喉科をまずは受診してみましょう。

 

(そごう・つよし 済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科部長)

 

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