北海道・厚沢部町の「保育園留学」が盛況 申し込み殺到、キャンセル待ちも

2022年0525 福祉新聞編集部
広い園庭で雪遊びする園児=はぜる提供

 北海道厚沢部町が実施する「保育園留学」が盛況だ。町外の子育て家庭が1~3週間移住体験住宅で暮らし、子どもは町内の認定こども園に通う全国的にも珍しい試み。勤務地にとらわれない働き方の定着や都会では味わえない自然体験へのニーズを背景に、首都圏を中心に申し込みが殺到、キャンセル待ちが出ている状況だ。

 

 背景には過疎進展への危機感がある。町人口は20年前と比べおよそ70%まで減少。現在は約3500人だが、子育て世帯の流出で今後も過疎化が進む見通しだ。

 

 同町は2010年、人口減対策の一環として移住体験住宅「ちょっと暮らし住宅」(現在3棟4戸)の運用を開始。ただ、シニア世代が避暑地として利用することが多く、これまで移住に至った人はいない。

 

 同住宅や19年に開園した町立認定こども園「はぜる」(定員120人)の一時預かりなど既存の資源や制度を組み合わせ、子育て世帯を呼び込む「保育園留学」を着想した。

 

 はぜるは、町内に幼稚園がなかったことや、旧町立3保育所の老朽化を背景に3園を集約し、子育て世代が移住したくなるようにという願いを込めて新設された。しかし、園児数は年々減少し、直近では80人を切り、稼働率は65%まで落ち込んでいる。

 

 短期的に移住の成果は求めず、留学した子どもが将来、町に興味を持ったり、家庭で町の農産物を取り寄せたりと長期的な関係性を築き、町の活性化につなげる狙いだ。

 

 食体験を通じて以前からつながりのあるキッチハイクとの共同事業として昨冬にスタート。同住宅で1~3週間暮らし、親がテレワークしている間、子どもははぜるに通園する。はぜる内にある子育て支援センターの一時預かり事業を通じて受け入れ、利用費は留学費用に含まれている。

 

 本年度の申し込みは1月に開始。1カ月で100世帯以上から申し込みがあり、10月まで満員に。約70世帯がキャンセル待ちになっている。こうした状況を受け、6月から移住体験住宅を2棟追加する予定だ。道内自治体や道外の保育施設からは視察の問い合わせも寄せられている。

 

 はぜるの園児、保育士にも良い影響が出ているという。主任保育教諭の橋端純恵さんは「園児のコミュニケーションスキルが上がっている」と感じている。町唯一の保育施設できょうだい同然に育ってきた園児にとって、道外からの園児に興味津々。互いの地元のことを紹介し合ったり、一緒に園庭で遊んだりと良い刺激になっている。

 

 また、道外園児の一時預かりの利用が頻繁にある状況は「保育士としてのプライドをかけて仕事できる」環境だとし、職員のモチベーションや学ぶ意欲の向上につながっているという。

 

福祉新聞の購読はこちら