津波から園児と住民守る こども園の敷地内に避難ビル(三重)

2022年0615 福祉新聞編集部
敷地内に整備した津波避難ビル=法輪会提供

 南海トラフ地震など大規模災害に備え、三重県鈴鹿市の「ほうりん認定こども園」(定員129人)は、敷地内に津波避難タワービルを設置している。園を運営する社会福祉法人法輪会は市と協定を締結し、災害時地元住民にこのビルを開放することになっており、地域の防災力向上にも一役買っている。

 

 市によると、南海トラフ地震が発生してから、津波の第1波が沿岸に到達するまでの時間はおよそ70分。この間に浸水予測区域外に逃げることになるが、迅速な行動が難しい高齢者や逃げ遅れた人は、市が指定する近くの津波避難施設に緊急避難する。同園は海岸からおよそ700メートルに位置し、津波で浸水する深さは最大で1・3メートルになると予測されている。

 

 木造平屋の同園はこれまで、全員がおよそ1・2キロ先の避難場所まで、徒歩で避難訓練を行ってきた。ただ、乳幼児を誘導しながらの移動には時間がかかり、これに悪天候や建物の倒壊などが重なれば、さらに時間がかかることが懸念されていた。

 

 園周辺には垂直避難できる高い建物はなく、ゆはず(弓へんに巾で一文字)尚史理事長は園駐車場の一角に津波避難ビルの建設を決断し、2020年に完成させた。総工費はおよそ1億円。市の補助金500万円を除く全額を借り入れや積立金で賄った。

 

 建物は鉄筋コンクリート造3階建て。屋上までの高さは11・6メートル、延べ床面積は約248平方メートル。園児や高齢者でも上りやすいように外階段の傾斜は緩やかになっていることに加え、園と防災協定を結ぶ隣の工場の社員が園児の移動を補助してくれる。

 

 避難場所となるのは3階と屋上で、収容人数は138人。2階は備蓄倉庫、1階は5歳児の保育などで平時から利用している。

 

 保護者はもちろん、近くの住民から「安心できる。本当にありがたい」と好評だ。最近は地域の避難訓練でも利用してもらっている。理事長は「地域全体で人的被害の軽減につながれば」と期待している。

 

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