体の距離と重心を意識

2022年0722 福祉新聞編集部

 日頃より介護を中心に業務に就いている皆さんは、要介護者や自身の重心の位置を意識していますか。

 

 長年にわたり介護の職に就き、研修などで聞いたことがある人も少なくないと思いますが、改めて「要介護者と自分の体の距離と重心を巧みに使う」ということについて述べたいと思います。

 

 特に施設や病院で勤務する人は、さまざまな介護度の要介護者への介助により、自身の体へ大きな負担が掛かることがあります。しかし、負担が少なく介助できれば、要介護者に対しても安心感を与えることにつながります。

 

 早速ヒトの重心の位置について述べます。立位姿勢における身体の重心は、第2仙骨前方(成人男性では身長の足から約56%、成人女性では約55%)にあるとされています。臍へその少し下の位置にあたります。

 

 また、上半身や下半身それぞれに重心が存在します。上半身の重心は第7~9胸椎(みぞおち)付近にあり、下半身の重心は大腿骨の2分の1よりやや上にあるとされています。特に起き上がりや移乗動作の介助では、上半身や立位姿勢の重心を意識することが重要となります。

 

 まず、起き上がり動作では上半身を起こす際に腰痛を引き起こすことが多くあります。要介護者の上半身と介護者の距離が離れている状況では、介護者の腕全体に要介護者の体重が掛かります。その状況で介護者の腰を支点として上半身を起こすと、腰へ過度な負担が掛かり、腰痛を引き起こしてしまいます。

 

 起き上がり動作は上半身を臀部の上に移動させることで完結します。そのため、上半身の重心をいかに負担なく臀部の上に移動させるかが介護をする際のカギとなります。要介護者の上半身の近くに立ち、上半身の移動とともに介護者の位置を移動することで腕への負担を軽減し、腰痛を予防できます=写真。

 

 次に移乗動作は、腰痛を引き起こしやすい動作が多くあることに加え、転倒にも十分に注意しなければいけません。特に立ち上がりや方向転換の際に腰痛を引き起こしてしまうと、要介護者のみでなく自身も危険にさらされてしまいます。そんな危険を回避するときにも要介護者との距離や重心の使い方が重要になります。

 

 意識することは、要介護者と介護者の重心の位置を一定距離に保ち、共に移動することです。介護者の腰を支点として立ち上がるのではなく、一緒に立ち上がるように意識してください。そして、方向転換の際も介護者の上半身をひねるのではなく、ともにステップを踏み、一緒に方向転換をすることで安全に動作を介助することができます。

 

 以上のように、要介護者や介護者の距離や重心の位置を意識することで、共に負担が少なく安全に動作を完遂させることができます。また、ベッドの高さを変えるなど環境面にも目を向けることでさらに負担が少なく介助ができるようになります。自身の体を上手に使うことで仕事や私生活において健やかな毎日が送れるのではないでしょうか。

 

筆者=八千代リハビリテーション病院 課長代理 山田友紘

 

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長。

 

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