むせない誤嚥を見過ごさない

2022年1118 福祉新聞編集部

 ほとんどの人は、飲食物や唾液などでむせ込んだ経験があるのではないでしょうか。そのむせ込みの原因が「誤嚥」です。飲み込むことを「嚥下」といい、通常は食物や唾液などは、口腔から嚥下反射によって無意識的に食道を通って胃に送り込まれます。その過程で、何らかの原因で誤って気管に入ってしまう状態を「誤嚥」と言います。 

 

 誤嚥により気管を通って肺に入ると、誤嚥性肺炎を引き起こすことがあります。私たちはむせる(せきをする)ことで誤嚥しても誤嚥性肺炎になりづらくなっています。飲食物や唾液などが誤って気管に入ると防御反射としてせきがでます。せきをすることで気管から肺に異物が侵入しないように守ってくれており、いわゆるSOS信号のようなものです。しかし、脳血管疾患などの病気や高齢になってくると、むせる能力が低下し、誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなります。

 

 誤嚥には、大きく分け(1)嚥下前誤嚥(2)嚥下中誤嚥(3)嚥下後誤嚥の三つのタイプがあります。
 (1)嚥下前誤嚥は、食物を口の中に入れた段階や咀嚼中にゴックンと嚥下反射が起きる前に気管に流れ込む状態を言います。(2)嚥下中誤嚥は、嚥下の最中に嚥下反射が不十分で気管に入ってしまう状態を言い、(3)嚥下後誤嚥は、嚥下反射の後に口腔内や咽頭の残留物が遅れて気管に流れ込むことを言います。

 

 むせることができる人であれば、誤嚥にすぐ気付くことができますが、ここで一番問題になるのが「むせない誤嚥」です。むせない誤嚥は、気管に飲食物や唾液などが入ってもSOSが出せない状態です。そのため、誤嚥していることに気づかずに食べ続けた結果、気づいた時には誤嚥性肺炎になっているケースが多いです。

 

 むせない誤嚥を見過ごさないために、嚥下のタイミングで甲状軟骨(喉仏)がしっかりと上がって嚥下の後に元の位置まで戻っているか、声帯に残留物がないかの確認が必要です。目で見て判断することもできますが、甲状軟骨が浮き出ていない方は軽く触って確認することもできます。甲状軟骨が上がることで嚥下の時に気管にフタをしながら食道が開きます。

 

 また、甲状軟骨が動いているからといって速いペースで口腔内に飲食物を運ぶことは危険です。口腔内の残留物がないことや、1回の量に注意しないと誤嚥性肺炎のリスクが高まります。残留物の確認は、「あ~」と声を出してもらい、ガラガラ声になっていないかで判断できます。

 

 高齢者や脳血管などの病気の方は、咀嚼することや舌で喉の奥に食べ物を送る機能も低下していることがあります。嚥下の1回1回をゴックンと意識しながら食べてもらうことがよいでしょう。

 

 むせない誤嚥を見過ごさないためには、周囲にいる人たちの意識が不可欠となります。

 

筆者=前田健志 五反田リハビリテーション病院 主任

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長。

 

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