生活を広げる福祉用具(入浴編)

2023年0120 福祉新聞編集部

 日々の生活で入浴は楽しみの一つですが、浴室という特殊な環境から見守りを含めた介助を行う場合に配慮すべきことは〝滑る〟ということです。滑ることで転倒の危険が増し、重大事故につながります。

 

 また、入浴するためには、(1)浴室(脱衣場)までの移動(2)衣服の着脱(3)浴室への出入り(4)洗体・洗髪(5)浴槽への出入り(6)浴槽内でしゃがむ・立つなど、さまざまな行為を行うため、利用者の心身機能にあった環境を整えることが必要です。

滑り止めマット

 立ち座りをする場所のほか、浴槽内に敷くと有効です。浴槽内は浮力が働くため脚力が弱い場合は、上体を支えきれず沈み込む溺水の危険があります。使用中につま先が引っ掛からないように注意しましょう。
手すり

 

 立ち座り・またぎ動作をする場所・出入り口に、縦手すり・横手すり・浴槽内手すりなど利用者の心身機能を考慮して設置します。浴槽の壁に縦手すり・横手すりを設置することが多いと思いますが、またぎ動作をより行いやすくするために、横手すりを洗い場まで伸ばすと良いでしょう。脱衣場も縦手すりと高さの違う横手すりを設置すると、衣服着脱やシャワーキャリーへの移乗などに役立ちます。

浴槽台

 洗い場で使う場合と浴槽内で使う場合があります。股・膝関節などの可動域制限や痛みなどがある場合、浴槽内に設置することで立ち座りが楽になります。また、腰を高くすることで沈み込みの防止にも役立ちます。

入浴介助ベルト

 介助者はバランスを崩した相手を素手で支えることは困難です。利用者に装着するほか、介助者が装着して相手に握ってもらう方法もあります。

バスボード・回転盤

 またぎ動作が困難な場合は、バスボードや回転盤を使うと座ったまま向きを変えることができます。

 

 このほか、シャワーチェア、シャワーキャリーなど、さまざまな福祉用具を使うことが安全な入浴のために必要ですが、大変危険な場所であることを再認識し、介助者の介護技術を過信せず、リフトを使った入浴に変更するなどの決断も必要です。

 

 介護現場では、本人ができることを介助者が行っていることが多々見られます。浴槽への出入りが難しく介助が必要でも、安定した座位を保つことで洗体や洗髪など自分でできることはたくさんあります。その人の機能に合わせて長柄ブラシや洗体用グローブ、ループ付きタオルを使ってみましょう。足元に浴槽台を置くことで安定してかがめ、足が洗いやすくなります。手で洗えない場合は、吸盤のついたブラシ=写真=を床に固定して足を洗うこともお勧めです。

 

吸盤のついたブラシ

 

 用具や手順の工夫でできそうなことを見つけ、できるだけ自分の機能を使える配慮をしましょう。限られた時間の中でも実際の動作を繰り返し行うことで、筋力や関節可動域が改善し、その動作が学習され、より体を動かしやすくなります。生活に根付いた本来のリハビリにつながります。小さな変化を見つけ勇気づけていくことが私たちの役割だと思います。

 

筆者=江連素実 アビリティーズ・ケアネット リハビリセンター長

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長

 

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