【後編】自閉症の遺伝子診断は幻想 フランス分子生物学者が講演

2014年0804 福祉新聞編集部
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 フランス国立科学研究センター名誉研究部長であるベルトラン・ジョルダン博士の来日を記念して、在日フランス大使館が主催した講演会「自閉症と遺伝」。ジョルダン博士、山﨑晃資・日本自閉症協会長と、日詰正文・厚生労働省専門官による討論会では、来場者との質疑応答の時間が設けられました。

 

 

➡ ジョルダン博士の講演をまとめた前編はこちら

 

➡ 山﨑会長や日詰専門官も加わった討論会をまとめた中編はこちら

 

 

(以下の記事は、在日フランス大使館が5月30日に日仏会館で開催した講演会「自閉症と遺伝」を一部書き起こしたものです)

 

 

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司会: ここからは会場の皆様からの話題提供を受け付け、ご一緒に議論を深めていきたいと思います。

 

質問者1:茨城県で障害のある幼児の支援をしています。数年前からよく耳にする自閉症とオキシトシンの問題について、パネリストの皆様のご見解を聞かせてください。

 

【ベルトラン・ジョルダン・フランス国立科学研究センター名誉研究部長】 分子生物学者。元国立科学研究センター研究部長。遺伝子やゲノムをテーマとする学術論文を多数発表。フランスなどのバイオテクノロジー企業のコンサルタントも務める。

【ベルトラン・ジョルダン・フランス国立科学研究センター名誉研究部長】
分子生物学者。元国立科学研究センター研究部長。遺伝子やゲノムをテーマとする学術論文を多数発表。フランスなどのバイオテクノロジー企業のコンサルタントも務める。

 

 

ジョルダン博士:オキシトシンは、母親が出産時に出すホルモンです。それがギャバという神経伝達物質の役割を変えます。難産の妊婦の出産を誘発する際、人工的にオキシトシンが投与されることがあります。

 

 それで、オキシトシンが自閉症の発症に関わっているのではないかという仮説があるのですが、答えは出ていません。ただ、動物実験でそういう可能性があるという論文があるのは事実です。

 

 

【山﨑晃資・日本自閉症協会会長】 医学博士。北海道大学医学部卒業。同大学医学部付属病院精神神経科外来医長、目白大学大学院生涯福祉研究科教授などを経て、現在臨床児童精神医学研究所所長、世田谷区発達障害相談・療育センタ―診療所長なども務める。

【山﨑晃資・日本自閉症協会会長】
医学博士。北海道大学医学部卒業。同大学医学部付属病院精神神経科外来医長、目白大学大学院生涯福祉研究科教授などを経て、現在臨床児童精神医学研究所所長、世田谷区発達障害相談・療育センタ―診療所長なども務める。

 

 

山﨑会長:実は日本でも、東京大学がオキシトシンについての研究を発表し、これは新聞にも載りました。自閉症の診断を受けた成人男性に、スプレーで鼻からオキシトシンを投与したところ、脳の活動が有意に上昇して、対人コミュニケーションが有意に改善したという結論でした。被験者の数は40例ほどだったと思いますが。

 

 先ほど動物モデルの話が出ましたが、こういう研究で非常に注意しなければならないのは、自閉症はあまりにも多彩な症状があるということです。コミュニケーション・レベルが改善されたといわれるケースなどは、非常に限定して考える必要があります。

 

 東大のこの研究も今後どのように発展していくか、私には分かりません。オキシトシンを使った動物実験は、今後非常に多く行われるようになるでしょう。ただ、オキシトシンだけで自閉症の問題が解決されるのかを、慎重に見守っていかなければならないというのが私の率直な感想です。今後の研究成果を待ちたいと思います。

 

 

質問者2:薬学の博士号を持って研究している者です。自閉症は原因が特定できておらず薬もない一方、うつ病は原因が特定できていないのに薬はたくさんあります。うつ病よりも自閉症の方が薬の開発が難しい原因は何なのでしょうか。

 

山﨑会長:第1の理由は、自閉症の診断基準が未完成であることです。アメリカの診断基準のDSM-5にも、「この診断分類表は、料理のテキスト本ではない。したがって、精神医学や子どもの発達について詳しく勉強して臨床経験を積んだ人が、これを参考にしながら診断分類すべきだ」と記されています。

 

 また、治療薬の臨床試験では、多様な症例が選択されてしまうことがあり、最終的な効果判定の解析を行う場合に、明確な有意差が得られなくなることも考えられます。

 

 自閉症は原因が特定されていないので、いわゆる原因療法としての薬物療法は存在しません。現在行われている薬物療法は、すべて対症療法です。ある症状や行動をどう改善させていくのかを考えるわけですが、発達障害の場合、子どもによって薬の効き方に大きな差があります。少量でも非常に効果の出る例もあれば、大量の薬でも変化がない場合もあります。

 

 それから特に発達障害のある子どもの場合、行動評価が非常に難しいのです。親や教師の評価をどう捉えるかなど、複雑な条件をクリアしなければ、なかなか上手くいかないのです。

 

 それから、当然といえば当然ですが、自閉症の子どもは、その時の状況によって行動が大きく変わります。端的な例を挙げると、低気圧が来る2~3日前ぐらいになると、状態が不安定になるケースもあります。

 

 このようにさまざまな要因を統一して臨床試験を行うのは、非常に難しいことです。ですから、子どもに薬物療法を行う場合、学校や親の情報も必要になります。会話ができる子どもなら、薬を飲んでどうなったのかを聞いて微妙に調整するため、慎重に行わねばなりません。

 

ジョルダン博士:一つだけ付け加えますと、より客観的な手法によって治療効果を評価することはできると思います。たとえば、子どもを治療前と90日間治療した後とで比較するのです。第三者が見て、薬の効果か本物かどうかが分かることが重要だと思います。

 

 それは決して簡単なことではありません。外的な要因がいろいろと関わってきて、投薬の評価を難しくすることがあります。ただ、それは不可能ではなく、希望は持てると思います。

 

 

質問者3:障害者団体の代表をしております。親からの遺伝については、当事者も親も薄々感じていることですが、これはあまり話題にしたがらないテーマです。

 

 ところがこれだけ自閉症のことが世の中に知れ渡ると、結婚相手をどうするかとか、自分の兄弟姉妹に自閉症がいるのに結婚して子どもを持ってもよいのかという話題が起こってきます。こういう議論はマスコミも面白がって不安を煽る形で喧伝しかねません。

 

 こうした話題を建設的な議論にするには、どうしたらよいのでしょうか。

 

ジョルダン博士:家族に自閉症児がいる人は、自分もリスクを背負っているのではないかと疑心暗鬼になってしまうという質問ですね。

 

 自閉症は、関係するさまざまな遺伝子の変異がすべて同じ人のDNAに現われた時になるものです。つまり、自閉症の人の兄弟姉妹であっても、関係している遺伝子が全部変異しているとは限らないというのが答えです。

 

 ですから、自閉症の人と結婚したとしても、子どもが自閉症になるとは限りません。なにしろ自閉症に関係している遺伝子の数はたくさんありますし、親の持つ遺伝子の型などが、受精の際に実際に伝わるのかどうかも、確率的なものであり、定かではありません。

 

 

 

➡次ページ 日本に根付く「血」や「家系」

 

 

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