養護施設訪問で後藤健二さんが伝えたかったこと 奥貫賢治・明星園園長(長崎市)

2015年0218 福祉新聞編集部
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児童養護施設明星園 奥貫賢治園長

 過激派組織「イスラム国」に殺害されたジャーナリスト、後藤健二さんとの出会いは、4年前にさかのぼる。

 

 法人理事長が、後藤さんがかかわる平和をテーマにしたアート展を手伝った際、後藤さんからその場で「施設に泊めていただけませんか」と依頼されたという。

 

 施設の玄関先で出迎えた私に、後藤さんは「ご迷惑をおかけします。どうぞよろしくお願いします」と、いかにも申し訳なさそうな面持ちであいさつされた。その時のにこやかな表情と柔らかい語調がいまだに耳に残っている。

 

 気遣い無用という条件であったため、その日の夕食も子どもと同じようにカレーライスを食べてもらった。

 

 そして、夕食後のひととき、戦争や紛争が起こると、子どもや女性、社会的弱者と言われる人々がいかにつらい思いをするかを、写真や著書を示しながら、穏やかに分かりやすく語りかけてくれた。子どもにはやや難しい内容にも思えたが、どの子も後藤さんの優しい語り口に引き込まれていた。

 

 話が終わると、子どもたちは後藤さんを取り囲んだ。ある子どもは、後藤さんの膝に鎮座してさまざまな質問を投げかけた。それを煩わしがることもなく、受け応えしてくれた。

 

 交流の様子から、後藤さんが根っからの子ども好きだとうかがえた。子どもたちはそれを肌で感じ取ったからこそ、警戒心なく初対面の後藤さんに甘え、心を開いたのかも知れない。

 

 その年のクリスマスには、後藤さんからサンタクロースをかたどったかわいいチョコレートが贈られてきた。律儀で、子どもや社会的弱者の側に身を置き、決してぶれないというジャーナリスト魂を感じたものである。

 

 当時、幼稚園児だった女児は、後藤さんが拘束されたという映像を見て、「私この人とカレーを食べたよ」と言ったという。4年もたつのに、忘れがたい大人の1人として、心に刻み込まれているのかも知れない。

 

 ただ、その後のマスコミ攻勢には閉口した。

 

 私が柄にもなく取材に応じてきたのは、一介の市民である私が、後藤さんの人となりや、後藤さんが決してイスラム国の敵ではないことを発信することで、億分の一の確率でも命を救うことにつながれば、と淡い期待を抱いたからにほかならない。素人の浅はかな思いがあえなく散った今、紡ぐ言葉を見出せないまま、今に至っている。

 

 後藤さんに長崎のおいしい刺身と焼酎をたしなんでいただいて良かった…。子どもたちとともに、尊敬の念を込めて、ご冥福をお祈りしたい。

 

後藤さん(奥)が法人を 訪れた時の様子

後藤さん(奥)が法人を訪れた時の様子

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