社会福祉法人風土記<19>児童養護施設麦の穂学園 上 資産家の別荘地が発祥の地

2017年0126 福祉新聞編集部
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麦の穂学園正面

 社会福祉法人「カトリック名古屋教区報恩会」が運営する児童養護施設「麦の穂学園」は岐阜県中津川市の山間地にある。名古屋から快速電車で約1時間。長野県境にあり、島崎藤村の小説で知られる「木曽路」の岐阜県側の入り口でもある。

 

 学園の最寄り駅はJR中央線の美乃坂本駅。付近には2027年の開業を目指すリニア中央新幹線「岐阜県駅」が設けられる予定になっている。開通すれば名古屋までの所要時間は10分、東京の品川駅までだと約50分。山間地の緑豊かな場所にリニアの駅と車両基地ができるという計画だ。

 

 麦の穂学園の横川聖園長(56)は「『東京の通勤圏になる』と、冗談を言っているんですが、子どもたちの生活の場が、にぎやかになってほしくはないとの思いもあります」と複雑な表情を見せる。

 

横川聖園長

横川聖園長

 

 さて、麦の穂学園(定員50人)が設立されたのは1958(昭和33)年11月。2代目となる聖氏の父である満雄氏(2016年10月21日に91歳で死去)が初代の園長を務めた。

 

 満雄氏の半生については後ほど書くことにするが、2001年に乳児院「乳幼児ホームかがやき」(定員15人)が設立されたのを機に、麦の穂学園の園長職を、長男の聖氏に託す形で乳児院の院長に就任。さらに08年4月からは電話や家庭訪問など子育ての相談を受け付ける「子ども家庭支援センター麦の穂」(1999年設立)のセンター長を亡くなるまで務めた。三つの施設を統括する法人の「常務理事」という立場でもあった。この間に全国児童養護施設協議会(全養協)の副会長を務めたこともある。

 

 麦の穂学園が設立された経緯は複雑だ。学園が建てられている場所は、戦前の樺太(サハリン)で事業を興し、一代で財をなした故藤井篤太郎氏の7000平方㍍を超す別荘地だった。ニシン漁やパルプだったりと、藤井氏の事業については諸説あるが、別荘は緑の茂みに囲まれて外部からは見えず、左右から生えていた竹林のアーチをくぐって出入りしたという。

 

 別荘の名残でもある築山や、石橋のある大きな池が今も残っている。築山には色とりどりのツツジが植えられ、枯れ山水がある。児童養護施設には似つかわしくないようなぜいたくな場所が、いまも園児たちの格好の遊び場になっている。別荘は地区の人たちにとっては特殊な場所だったようで、開園当時「子どもがいてもいいのか」というような話もあったという。

 

 藤井氏は当初、自己所有の資産すべてを三重県津市にある児童養護施設「みどり自由学園」に寄付する予定だった。しかし、同学園は「県をまたいでの経営は困難」として、同じカトリックの名古屋教区に話をつないだという。そこで、新しい児童養護施設の園長として白羽の矢が立ったのが、当時、金沢市の社会福祉法人聖霊病院「聖霊愛児園」で児童指導員をしていた横川満雄氏だった。

 

横川満雄初代園長

横川満雄初代園長

 

 横川満雄氏は1925(大正14)年3月に長崎県黒崎村(現長崎市外海町)で生まれた。満雄氏の著書「人々に支えられて」(2006年刊)によると、山間へき地の貧しい家庭で、両親と兄弟姉妹の11人家族だった。「カトリック教を信仰し、朝夕の祈り、日曜、祝日の教会のミサ聖祭の礼拝は守るべき信者の務めであった。この信仰心が日常生活の基本であり、幼い頃の私の精神を育ててくれた」

 

 こんな家庭環境の中で満雄氏が修道者になることを目指したのは13歳の時だった。しかし、カトリックの修道士や司祭の志願者を養成する学校に入ったものの、健康面から自宅療養を余儀なくされる。戦時下だった。療養する自分が許せず、長崎市の造船所で働いたときに、原爆の悲劇を体験して終戦を迎えることになる。

 

 戦後に中断していた修道者への道に再度挑戦したが、その道は険しく、やむなく断念せざるを得なくなる。健康を害しての再度の入院もあった。「司祭職への道が閉ざされ、進むべき進路を失った」紆余曲折の末に選んだのは、社会福祉事業だった。31歳の時に日本社会事業大学の研究科に入学。社会福祉主事、身体障害者福祉司などの任用資格を取得した。

 

 「司祭になることを諦めた私にとって残された唯一の仕事」として奉職したのが、金沢市の聖霊愛児園の児童指導員だった。「麦の穂学園の園長に」という打診があったのは、奉職して半年後のことだった。恩のある愛児園を退職しての転身には、かなりの葛藤があったようだが、新天地を目指すことを決断する。

 

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〈19〉児童養護施設麦の穂学園 下 太くなった地域のつながり

 

 

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