社会福祉法人風土記<28>八幡会 下 開花する”福祉の文化”

2017年1026 福祉新聞編集部
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「第三やはた丸」(八幡会所有)の船上。志賀稔理事長(左端)と「あかつき学園」の梶塚徹さん(左から4人目)

 南島原市加津佐町について民俗学者・宮本常一は『海と日本人』(八坂書房)の中で「戦国時代には隣接、口之津のキリシタン貿易とともに栄え、1590(天正18)年にキリシタンのコレジオ(現代の大学相当)が建てられた」と記している。このコレジオから指呼のところに、2003(平成15)年、八幡会から2番目に独立した社会福祉法人ほかにわ共和国(志賀俊紀理事長)のグループホーム「豊栄荘」「朝日荘」がある。

 

ほかにわ共和国の志賀俊紀理事長

 

 かつて海外まで石炭を運んでいた三井石炭工業(福岡県大牟田市)の別荘を取得し、改築したもの。そこで志賀理事長は意義を雄弁に語った。

 

 「障害者に自立してほしいと、『八雲寮』やグループホームづくりに力を入れてきました。ここを精神・知的障害の人が一緒に暮らせる場所にと考えた。以前ハワイでそのような施設を見てヒントを得ていたので、1階食堂、2階知的、3階精神というように。行政の人からは『一緒は無理』と言われたが、説得して開設できたことが本当に良かったと思う。なぜか。精神の人たちは知的の人たちを、何でもコツコツと辛抱強くやり遂げると見ている。また知的の人たちは精神の人たちを、頭が良くいろいろなことを知っていて教えてくれると。お互いに敬意を表する姿があるからです。食堂が交流の最適の場になっています」。

 

 もう一つ志賀理事長が八幡会時代から取り組んでいる〝福祉の文化〟の推進。その中から2事例を挙げる。

 

 ①名門レコード会社ビクターから1983(昭和58)年、『車椅子のおしゃべり』を出した。企画・志賀俊紀、歌・ボニージャックスのLPジャケットのカバー絵に、当時「あけぼの学園」から町立小学校に通っていた西平豊さん(現在47)が描いた作品が、豊かな表情が描かれているとして数ある作品群の中から選ばれた。

 

『車椅子のおしゃべり』のカバー絵の作品「城台先生」(絵・西平豊)

 

 ②創立50周年を迎える草思社から1985(昭和60)年に刊行された『空とぶうさぎ』鹿島武臣(ボニージャックス)編に、天草灘の潮騒が聞こえる「八雲寮」の松竹浩さん(現在56)が25歳の時に作った『汗』という素敵な詩が掲載された。

 

 人間は一生懸命仕事をすると 汗がでる
 それはどうしてか私には分からない
 そして 仕事を一生懸命しない人は
 少しも汗がでない ひとつも汗がでない人は 
 仕事をさぼっているしょうこだ
 仕事をする人の汗は 仕事の結晶だ

 

 本書は26刷のロングセラーとなっている。ほかにわ共和国の理念の一つ〝共汗共育〟が体現されていないか。松竹さんは火野葦平、斎藤茂吉、種田山頭火ら多くの文人に愛された雲仙岳の西裾にある小浜温泉の土産物「湯せんぺい」の箱作りをしていた。その円筒形の箱について、さだまさし氏は自著で書く。

 

 「きっとどこかの誰かが一つ一つ手作りで拵えているに違いないのである。(略)果たして幾らの手間賃で作るのだろう。と思った瞬間に僕の胸のどこかがキュンとするのだ」(『ちゃんぽん食べたかっ!』小学館文庫・2017年刊)

 

 海外からも見学者が来る海を生かした授産の水産事業を八幡会の「あかつき学園」は実施している。橘湾の生け簀の管理と利用者の指導を任された指導員・梶塚徹さん(32)は、日本財団寄贈の「第三やはた丸」を巧みに操船し筏に横付けし、利用者4人と餌やり。タイやシマアジが飛び跳ねうろこが光る。

 

生け簀に餌まき

 その一人、この道20年のベテランは「餌やりと出荷が楽しみです」とほほえむ。梶塚さんは「港の人や地域の人にお世話になって、この仕事ができています。出荷は成長を見ながらなので難しいですね」と赤銅色の顔をほころばせた。同乗した志賀稔・八幡会理事長は「五人の海人」と言って目を細めた。なお、海を生業とした民を歴史学者・綱野善彦は広く海民と名付けている。

 

 最近、1989(平成元)年から交流が続く韓国のソウル市立知的障碍人福祉館婦人福祉館・文龍沫館長からメッセージが届いた。

 

 「八幡会との交流が韓国でも評判になるにつれ、他の機関からの要請もあり、参加機関は35カ所になり、参加者の高い評価を得ています」(訳・松岡一隆)。

 

 志賀広子総合施設長(57)は「すべての施設利用児・者123人と職員112人の一人ひとりの心に寄り添って、〝創設者の願い〟を実現していきたい。それにはさまざまな分野の人たちの力をお借りして、いつも神様が見守ってくれていることを心して、みんなで力を合わせて、地域に貢献することだと思います」と八幡会の今後の指針を示した。 

 

志賀広子総合施設長

 

【髙野進】

 

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