社会福祉法人風土記<33>神戸光有会 中 戦前に総合施設の基礎築く

2018年0222 福祉新聞編集部
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神戸報国義会で生活する子どもたち(大正7年ごろ)

 神戸光有会の前身、神戸報国義会が貧民救済事業を1892(明治25)年に始めた当初から、財政基盤を支えたのが「小曽根財閥」と評された神戸財界の雄、小曽根家だった。

 

 創設から現在の5代目、小曽根佳生理事長(60)にわたるまで法人のトップであり続ける小曽根家。神戸出身で日本を代表するジャズピアニスト、小曽根真もその一員である。

 

 貸家・貸金業の先代を引き継いだ小曽根喜一郎(1856~1937)は、「開港で神戸の町はさびれる」との風評から投げ売りされた家屋や土地を買い続けて大土地所有者となり、そのもうけを新興産業に次々と投資していき、明治末年には神戸の高額所得者番付3位になったほど。

 

 一方、しばしば氾濫する神戸・湊川の改修工事の発起人になるなど社会事業にも強い関心を持ち、「たとえ巨大な利益を得る事業でも国家・社会の繁栄に寄与しないものには手を出さない」という気概の持ち主だった。仏教の教えを基に慈善事業を興した友人の目加田めかた栄から神戸報国義会への参画を要請されたときも、当初より幹事長役を引き受けた。

 

 「明治、大正、昭和と多くの企業の創業に関わり、阪神電鉄の社長などたくさんの会社の役員になりました」と小曽根佳生・現理事長が振り返るように、積極的な事業投資をする一方、1936(昭和11)年には時価50万円もの広大な土地を神戸報国義会に寄付するなど、人道主義を忘れることはなかった。

 

 神戸報国義会の理事長職(当時は会長)を1899~1936年の37年間も務め、そのポストは息子の小曽根貞松(1936~51年)、孫の小曽根眞造(1951~85年)、ひ孫の小曽根有(1985~2016年)と続き、現在の小曽根佳生理事長に引き継がれている。

 

 

歴代理事長ら。左から小曽根佳生・現理事長、小曽根有氏、小曽根眞造氏、小曽根貞松氏

 

 

 「父から引き継いだ以上、先達がさまざまな試練を乗り越えて存続させてきたこの施設をなくしてはいけない」と126年の歴史の重みをかみしめる。小曽根家には特に精神的な主張はないが、施設の運営・経営には専門家を配して任せる姿勢を続けてきた。

 

 救済事業は、食べるのにも困る子どもや親のいない子どもの保護・養育(育児院)と、病に苦しむ年寄りから子どもまでの診療(施療院)から始まった。神戸市から行路病人の引き取りを頼まれるなど、次第に救済の間口を広げていき、ぎりぎりのところで生きる人を助けるセーフティーネットを拡大していった。1925(大正14)年の市役所記録によると、年間延べ4万人、1日平均100人の困窮者を助けたとある。

 

 前述した1936(昭和11)年に小曽根喜一郎からの土地寄贈を活用して施設を拡大した。神戸・荒田町(今の兵庫区)にあった従来の育児・施療の2施設に加えて、養老・母子・身体障害者の施設を新設した。ここで今日につながる総合施設の基礎が築かれたことになる。1941(昭和16)年の市役所記録によると、施設利用者は年間延べ9万人、1日平均250人に及んでいた。

 

 ところが、1945(昭和20)年3月、米軍機による神戸大空襲によって兵庫区内の全施設が焼失してしまった。

 

 1年後に復興の動きが具体化し、1947(昭和22)年に現在の兵庫区夢野町に復興の拠点を移した。周辺が小曽根家寄贈の土地だったため、それらを売却して得た資金で、施設拡充、建て替えを進めることができた。

 

 1948年には兵庫県から生活保護法による保護施設(養老・救護・医療)、児童福祉法による児童福祉施設(養護・母子)の設置が認可され、3年後には新病院法に基づく病院開設も認可され、戦争によってズタズタにされたセーフティーネットがようやく復活した。

 

 だが、施設の実態はどうだったか。福祉の原点といわれる生活保護法に基づく救護施設では、戦後の高度経済成長下でも「人間のごみ箱」と呼ばれるような悲惨な状態だった。

 

 寝たきりの男たちが大部屋で10人一緒に生活しており、枕元で食事をする人、酒を飲んでトラブルを起こす人、排尿便をする人…が一室にぎゅう詰め。
 当時、身体障害者福祉法や精神薄弱者福祉法に定められた施設に入所できない重複障害を持つ人、つまり〝福祉の谷間〟にいた人たちのための受け皿として全国各地の救護施設が使われていた。

 

 そんな中、神戸光有会の現場で懸命に働く職員の姿が「救護施設」という本(一番ケ瀬康子ら共著・ミネルヴァ書房・1988年刊)で紹介されると、全国の福祉・保健・医療関係者が実習・見学のため神戸の地にどっと押し寄せた。 

 

【網谷隆司郎】

 

 

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