社会福祉法人風土記<33>神戸光有会 下 100周年を機に再出発
2018年03月01日 福祉新聞編集部
行き場のない子どもや失業者、高齢者、障害者を保護し治療しようと始まった「神戸報国義会」は、1992(平成4)年、福祉事業開始100周年を迎え、名称を「社会福祉法人神戸光有会」(神戸市兵庫区夢野町)と変えて再出発した。
名前は変わったが、神戸市役所から行路病人の収容・救護を嘱託された創立当時から果たしてきたセーフティーネットの役割は変わらなかった。
「今も施設のほとんどは措置制度によるものです」と井上則俊・副理事長兼養護老人ホーム「夢野老人ホーム」施設長(76)は説明する。
行政庁からの委託を受け、生活が困難で手助けが必要とされた人たちの入所を引き受ける代わりに、その費用(措置費)を必要経費として役所からもらう制度。日本の戦後の福祉制度の根幹だ。
2000年度の介護保険導入以来、高齢者、障害者福祉の分野で、受けるサービスを契約する制度が始まったが、措置制度を必要とする人たちが今も多くいるのが現実だ。
神戸市役所職員として生活保護、児童相談など福祉分野一筋44年の経験を持つ井上副理事長は、これからの神戸光有会のビジョンと課題を話す。
「収益事業が少ないので、いかに経営改革をしていくかが課題です。そのためにも今まできちんとしていなかった事務局の体制を整備したい。20代の職員が少ないので若返りを図りたい。施設長も今後は生え抜き、プロパーがやるのが理想だ。行政側の財政事情が厳しくなっているので、法人側も安定経営のために財政改革を含めていろいろ努力していきたい」
現在ある10の施設も戦後の福祉社会建設の中で、国や自治体の法律・政策変更に応じて、中身を大きく変えてきた。神戸光有会の原点であり福祉の原点でもあるセーフティーネット、救護施設も例外ではない。1967年から44年間勤続した満保善夫氏(73)が回顧する。
「うちの救護施設は当時定員34人と小規模な施設で、身体障害者、知的障害者、病弱者、傷痍しょうい軍人、筋萎縮症の人などさまざまな人が入所していた。当時はそれぞれの障害に応じた施設が少ない時代だったので、知的・精神・身体と重複障害の人を受け入れる所がなくて、そういう〝福祉の谷間〟の人も受け入れていた。当時の施設は全国的にも居住環境が悪く〝人間のゴミ箱〟というすごい表現をした人もいたような状態でした」
やがて自立支援のため、「施設から地域へ」の流れが出て、1988(昭和63)年には全国に先駆けて通所事業が認可された。
「当初は賛否いろいろ。問題が起きたらどうするという心配の声もあったが、近くの医療機関の先生たちが連携して24時間バックアップすると言ってくれて道が開けた。これで他の県にも広まっていきました」
生活保護受給者の自立支援がより具体的に生活訓練へと向かい、2007(平成19)年に「アルブル夢野」が開設された。さらに就労支援を加えた現在、救護施設「アメニティホーム夢野」から出て地域で生活している障害者や1人暮らしをめざしている障害者を対象に、さまざまな自立支援事業が行われている。
中村陽二施設長(56)が説明する。
「施設を出た人に対して、以前なかった食事提供や金銭管理、訪問看護などのサービスを増やした。生活介護では人付き合いの練習や掃除や家事の練習、就労継続支援B型では清掃作業、喫茶作業などの生産活動、レクリエーション活動もあります」
施設を飛び出す活動は子どもの世界でも進んでいる。児童養護施設「夢野こどもホーム」と児童厚生施設「夢野児童館」は、新しいことに取り組んでいる。
ホーム内には児童会があり、8人ずつ五つのユニットごとに意見や要望を出し話し合いで決めている。
梶岡正行施設長(57)は「食事メニューの変更、門限を遅くすること、毎月のお小遣いアップなど、自分たちのことは自分たちで決めるという自治組織であることを実践させています」と、うれしそうに話す。
小学生の放課後の学童保育から始まった児童館の活動も、中学生をリーダーにして近くの児童公園でも遊べるようにしたほか、保護者や地域の住民と一緒に催す夏祭りや卓球大会などに発展した。
明治期から続いている母子生活支援施設「夢野母子ホーム」には現在、母親19人、0~17歳の子ども31人が暮らしている。母親には職業紹介をして半数以上が働いており、小中高校に通う子どもたちには勉強の手伝い、受験相談などきめ細かい指導に努めている。
松下孝施設長(69)は「自立目標を達成してここから新たな生活に乗り出していく母子を見るとうれしい。最近、発達障害の子どもが増えてきているので、今後は心理判定員などのスタッフが欲しい」と、網目の細かいセーフティーネットの準備にも手を尽くす。
【網谷隆司郎】
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