社会福祉法人風土記<35>福島愛育園 下 震災も糧に子らは成長

2018年0419 福祉新聞編集部
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現在の福島愛育園

 「ネギ坊主の花、ギガンチューム、色とりどりのチューリップが咲き、チョウチョが乱舞して、まさに園歌(服部克久作曲)にある〝花と緑と太陽が輝き渡る山の上〟でした」。福島愛育園が福島市の躑躅ケ森に移転した10年後の1972(昭和47)年に入職した星千重子・あすなろ保育園元園長(68)は、当時の園の風景を回想する。

 

 「あすなろ保育園」は1984(昭和59)年に開設、宮﨑義宣・愛育園園長(1917~2005)の妻・キク(1920~91)が初代園長に就任。12年後には愛育園園舎を建て替える。

 

 ところが、2011(平成23)年3月11日、東日本大震災が発生。翌日には原発が爆発した。地震で家具の倒壊や駐車場、グラウンドに亀裂が走った。幸い園児たちは皆無事で、居住棟に大きな被害はなかった。しかし、水道は1週間ほど止まり、川(側溝)から水をくみプール用の消毒液を入れて生活用水とした。飲み水は備蓄のペットボトルを使った。水を入れるとご飯になる非常食パックなど、100人が3日間過ごせる食糧備蓄があり、おにぎりを作ってしのいだ。3日後に市内の別法人の児童養護施設「アイリス学園」から飲み水が届いたときのうれしさは皆忘れられないという。

 

 保育士の後藤幸乃さん(29)には忘れられない出来事がある。食べるものが日に日に少なくなっていく中、おにぎりと焼いた魚肉ソーセージを中3の男の子が「俺のも食べろ」と小学生たちに分け与えていた。少ない食べ物を分かち合う園の仲間たちの姿に、普段はやんちゃな男の子も優しい気遣いをし始めたのだった。

 

 当時の愛育園園長・齊藤久夫さん(65)は、敷地内全域の放射線量を測定しマップに落とし込む作業が日課になっていった。国の基準に従い、「注意、危険、立ち入り禁止」と描かれたマップが今も生々しく残っている。

 

 齊藤さんの後任、現園長・常務理事の長谷川文夫さん(62)の経歴は異色だ。調理師として福島市内の実家の食堂を手伝っていたが、ボランティアとしてギターを弾きに、時々、園を訪れていたところ、「調理士として来てくれないか、男手が必要」と言われる。「福祉は崇高な志を持つ人たちがするものと思っていたので非常に驚いた」と言う長谷川さん。調理の腕には自信があったので、「私などでいいのだろうかと迷いながらも、熱意にほだされて、承諾しました。音楽家になりたいという夢もあったのですが」と笑う。

 

長谷川文夫園長

 

 1981(昭和56)年に職員としての第1歩を踏み出す。児童90人、職員27人の食事作りは大変で、「夏休みは、朝・昼・夕と毎食117人分を作り、食後は山のような皿を洗う、汗が体中からポタポタと落ち、コックコートはいつも汗でずっしりと重かった。そのため着替え用は6枚くらい持っていました。中学生は土曜日には弁当を持って行くので午前2時半には出勤して弁当を作り、そのあと朝食の用意をした」と言う。13年後に事務職に異動するが、「無駄な仕事は何ひとつない、すべてが関連している」「魂のない処遇は意味がない」など先輩園長たちの言葉に励まされて今日まで来たと語る。

 

 120周年の2012(平成24)年、愛育園卒園の鷹嘴冨美江さん(1942~2010)の寄付(老後資金にと倹約して貯めた2000万円)で「ふみえひろば」が園内にオープン。

 

 西牧伸弘さん(59)は支援者の一人。65年前に西牧さんの父親たちが始めた、中学を卒業する園生に「時間を守る、時は金なり」の思いを込めて腕時計を贈る活動を今も引き継いでいる。善意の人がきら星のごとく園を包んでいる。

 

 創設者の瓜生岩は、施設の生活を努めて家庭的にし、慈愛に満ちた養育を行ったことで知られる。伝統を受け継いだ福島愛育園は現在、児童養護施設(定員65人)のほか、市街地に定員6人の小規模児童養護施設2カ所、保育園(定員60人)1カ所を運営している。従来から退所児童の就職先には職場訪問を行うなど緊密な連絡を取っている。今年4月からは、蓄積してきた児童養護の専門知識と経験を生かし里親支援を始める。

 

 吉岡棟憲理事長(70)は「歴代の役職員や行政など、関わるすべての人たちが誠意をもって支えてくれたから今日がある。子どもたちを取り巻く状況は先行き不透明なところがあるが〝仁慈隠惕〟の精神を忘れることなく精進し、まい進していきたい」と語る。

 

 長谷川園長は「今風に言えば、まさに〝地域共生社会〟を目指した岩子刀自の当園。創設者の志を忘れずに125年の歴史の重みをかみしめつつ、子どもたちが人として社会に羽ばたいて行けるように全身全霊でやっていきたい」と言う。   

 

 

【荻原芳明】

 

 

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