社会福祉法人風土記<47> 庄内厚生館 上 戦後、教室借りて職業補導

2019年0417 福祉新聞編集部
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昭和30年当時の山家寮

 庄内厚生館は戦後間もない1946(昭和21)年9月、大分市に隣接する大分郡阿南村(現由布市)にあった阿南小学校の教室を借りて、職業補導施設を開設したことに始まる。

 

 戦時中、大分市は22回に及ぶ空襲で死者177人、負傷者270人の犠牲を出し、市街地は焦土と化した。終戦後の社会的混乱で生活苦にあえぐ引き揚げ者や戦災家庭の婦女子が多数出たことから、困窮者の生活再建を支援するため洋裁などの授産施設開設を目指した。

 

 取り組んだのは当時32歳だった伊藤慈海初代理事長(1914~2003)。大分県職員を退職して地元の天台宗「蓮乗寺」住職を継いだ時だった。当時の阿南村や東庄内村など、庄内郷4カ村の村長の協力を取り付けるために、東奔西走する。

 

伊藤慈海・初代理事長

 

 長男で庄内厚生館の伊藤大海理事長(66)は「急場しのぎといえ、公の学校を使うため、村長さんらの協力が必要だったんでしょう」と振り返る。

 

 慈海初代理事長の生い立ちに触れておきたい。旧姓を「石橋勇吉」。1914(大正3)年7月24日に、福岡県山門郡柳河町(現柳川市)で、父末春と母スエの次男として生まれた。スエは勇吉が2歳の時に、末春は12歳の時に亡くなる。旧士族だった。行李に掛け軸や日本刀が2箱分ぐらいあった。勇吉の兄政雄はその行李とともに親戚の家に、勇吉は隣町にある瀬高町(現福岡県みやま市)の天台宗宝聚寺に預けられ、兄弟は離ればなれになる。

 

 宝聚寺で14歳の時に僧侶になるための「得度受戒」をした勇吉は、比叡山に登り、天台僧としての基礎的な教義や儀式作法を習得する修行に打ち込む。32(昭和7)年3月に現在の「叡山学院」(滋賀県大津市坂本)の前身「叡山家寮」を卒業する。

 

 同時に四天王寺(大阪市天王寺区)の木下寂善住職(1876~1942)の秘書になり、寺の社会事業団関係を担当、四天王寺が運営する「藤井寺養育園」の職員として更正援護業務にあたった。当時の養育園には満州事変(1931年)で戦禍に巻き込まれた現地民族の孤児70余名が収容されており、その痛ましい姿に強い衝撃を受けた。

 

 その後、41(昭和16)年、預けられた福岡県瀬高町の宝聚寺と「法類」の関係にあった大分県庄内町にある「蓮乗寺」の伊藤豪海住職の養子になり、石橋姓から伊藤慈海へと改名する。それと同時期に県庁に入庁。総務課から「社事兵事課」を経て、厚生援護課に勤務したのは、藤井寺養育園の職員を経験したことも一因であった。

 

 県庁職員としての仕事は5年ほどで、戦後間もない46年1月に依願退職。同じ年の9月に戦争被災の女性たちの職業補導をする「庄内厚生館」開設にこぎつける。「自分なりに何かできることはないかという葛藤が生じ『一隅を照らす』道をたどるようになった」と後に述懐している。「終戦を機に社会福祉事業への思いが、やみがたかった」とも振り返っている。比叡山を開いた最澄の教えを実行する生活に入っていく。

 

 社会福祉法人「庄内厚生館」は大分県のほぼ中央部に位置する由布市にある。大分市と別府市に隣接する由布市は2005年10月に挾間、庄内、湯布院の三つの町が合併して誕生した。国立大分大学のキャンパスがある挾間町は大分市のベッドタウン、湯布院町は国内有数の温泉観光地として有名だ。法人の名前にもなった庄内町はその中間にあり、森や川など自然に恵まれた農山村といった雰囲気を漂わせる。この庄内町の山あいに庄内厚生館の各施設が点在している。

 

 「厚生館」の名前は県の厚生援護課在職中に母子生活支援施設「別府厚生館」(1946年4月)の開設に関わったからでもあった。授産施設でもあった職業補導の女性たちは母子家庭が多く、子どもたちを預けて仕事ができるようにと「あなみ保育園」を母子寮に併設。恵まれない母子の生活安定に努めた。

 

 その後、職業補導施設は戦争被災女性の減少に伴い、母子寮とともに閉鎖。49年に児童養護施設「山家寮」を開設する。戦争で家族や親類を失い、路頭に迷う子どもたちの相談相手になり、将来に夢と希望を与えるための施設だった。 

 

【澤晴夫】

 

 

 

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