社会福祉法人風土記<53> 札幌慈啓会 中 戦後の苦難乗り越えて

2019年1024 福祉新聞編集部
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横山保・理事(左)と植田英武・第7代理事長

 戦時下には、養老院の院舎半分が焼失するなど苦難に見舞われたが、乗り越えた。食糧難も数人の職員と在院者とで、法人の土地を耕し作物を作り生き延びた。

 

 戦後、戦災援護施設に指定された。樺太からの第4次引揚船(昭和22年)から70人が養老院に入所。在院者は290人に膨張し、出入りも激しかった。医療充実と拡張が急務となり、診察室の増設を申請したところ、1948(昭和23)年11月に付属病院として許可が下り、1年半後の3月末に病院増築が完成。

 

 その喜びも束の間、翌年4月、シラミが付着した養老院の大量の衣類を病院風呂場で熱湯消毒している最中、過熱が原因で病院が全焼、薬・機器などすべて焼失した。翌年に復旧するが、1000万円強の負債が残り、法人は倒産寸前の財政状況となる。

 

 打開策の一つが、温泉付き有料老人ホーム経営。定山渓温泉の売りに出た旅館を買収したものだったが、入居者は3人のみで失敗に終わった。

 

 1957(昭和32)年、体制を刷新。7代目理事長に植田英武・りんゆう観光創業者(1894~1971)が就任し、負債整理実務は横山保理事・横山製粉社長(1903~1981)が中心となり、全理事が奔走した。

 

 病院全焼・建て替え関係借金、施設増改築・設備改善関係借金、旅館買収などにおける借金、取り引き業者への未払い滞納分など負債総額は6000万円を超えていた。

 

 理事たちは、養老院の土地の一部売却、有料老人ホームの売却、理事たち自身も850万円を提供、北海道銀行からの500万円融資受け入れなど、次々と手を打った。

 

 「理事たちは、法人の母体・新善光寺の檀家総代でもあり、信仰上も固い絆で結ばれ、名目上の理事とは一味も二味も違い、自分のこととして動いた。各界の実力者で個人の信用もあった」(『札幌慈啓会80年史』)。

 

 やがて負債完済の見通しも付き、植田理事長は退任を決めた。次を誰にするかで1961(昭和36)年2月、理事会が開かれ、杉野目晴貞理事・北海道大学長(1892~1972)が「創設当時の原点に立ち返るべきだ」と提案。決議され、太田隆賢・新善光寺第5世住職が第8代法人理事長に就任した。

 

 

太田隆賢・第8代理事長

 

 太田隆賢上人(1915~1992)は、1951(昭和26)年2月、新善光寺第5世住職として法灯を継いだ。当時、大伽藍だいがらんなどは札幌火災(昭和21年)で焼失し、寺は廃寺のようなありさま。檀信徒は終戦の痛手からも立ち直れず信仰も薄れ、混迷を深めたままの状態だった。

 

 やがて隆賢上人の熱意と行動力が実を結び、檀信徒も戻りはじめ、13年後には大伽藍も再建、復興を成し遂げる。大本山増上寺から「中興之号」が与えられた。

 

 一方、幼児教育にも力を入れ、札幌明照幼稚園(昭和28年)を設立し、後に北海道私立幼稚園協会初代会長なども歴任、幼稚園は学校法人新善光寺学園「白石幼稚園」として現在に至っている。

 

 話は法人に戻る。寺の再興に全力投入していた隆賢上人だが、この間の法人理事や職員の苦闘は熟知しており、理事長に推挙された時には覚悟を決め「初代のつもりで新しい養老院を創る」と宣言した。

 

 太田理事長には強力なパートナーがいた。福祉のプロで、「福祉こそ己の生きがい」と精魂傾け、全国にも勇名を馳せた長身痩躯そうくの三好俊夫・専務理事(1917~2004)だ。もう一人、医療のプロは、北海道老年医学研究振興会を立ち上げ、道内における老年医学研究の道を開いた浦澤喜一・病院長(1927~2011)だ。浦澤院長は、恩師の札幌医科大学の和田武雄教授(1914~1999)から「法人に尽力せよ」と言われ、第3代病院長として一筋に34年間、病院を確固たるものに築き上げた。

 

 この二人と共に、理事長を中心としたトロイカ体制で本格的再建に向けて取り組んだ。

 

 1966(昭和41)年に養護老人ホームと特別養護老人ホームを新築、翌年には病院新築。さらに翌年、昭和天皇、皇后両陛下行幸啓の栄に浴し、1969(昭和44)年に法人名を札幌養老院から札幌慈啓会に、付属病院を慈啓会病院に改称した。

 

 軽費老人ホーム札幌菊寿園・札幌市稲明園・札幌市拓寿園、特別養護老人ホーム札幌市稲寿園などの経営委託を受け、入浴援護事業等各種サービス事業を展開し、法人は充実発展し組織が拡大していく。  

 

 

【荻原芳明】

 

 

 

 

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