社会福祉法人風土記<4>東京リハビリ協会 上 障害者の自立めざし奮闘

2015年0717 福祉新聞編集部
協会のいしずえを築いた 斎藤公生・2代目理事長

 障害は重くとも同じ年齢の市民と同等な暮らしを(国連障害者の権利宣言、1975年)−当事者や家族の思いを受け、授産事業に汗を流す社会福祉法人は多い。「東京リハビリ協会」(東京都立川市)も障害者の自立に向けて先進的に取り組む一つである。

 

 多摩川に近い法人本部ビルに変わった看板が目につく。「熱帯魚 海水魚 販売・リース」。法人の就労移行支援事業・就労継続支援B型事業を展開する「ワークステーション立川」(知的障害者50人。以下、人数は定員)がメーンのランドリー事業とともに力を注ぐ観賞魚ビジネスだ。ミニ水族館もある。

 

 「近隣にある老人保健施設のお年寄りが訪れ、水槽を泳ぐ魚を何時間も眺めています。〝憩いの場〟でしょうか」と緑川清美理事長(54)は歓迎する。5代目の責任者として法人の舵取りを任されたのは昨年の12月。創立50周年の年だった。

 

 その創業のルーツは北海道にある。

 

 1964(昭和39)年。日本中がアジア初の東京オリンピック・パラリンピックで沸いていた。そのころ首都圏の身体障害者授産施設は数えるほど。「クリーニング作業所を」。小樽市で実績を持つ社会福祉法人北海道宏栄社は、やがて協会の2代目理事長になる斎藤公生理事(77)ら2人を送り込んだ。準備に奔走、東京オリンピック開幕のファンファーレが国立競技場(代々木)に鳴り渡る25日前の9月15日、東京都稲城市の電気部品会社跡地で身体障害者入所施設「三恵中央センター」は船出した。ただし無認可の民間作業所として。

 

雌伏の12年間

 

 実は設立計画時に予定した助成金が出ず、施設の法定基準を満たせなかったという。とはいえ、機械をセットした作業場、利用者約40人の寮を備えた管理棟は建ち、借金とともに目の前にある。債権者に返済を延ばしてもらい、リネンサプライ商戦へ。

 

 代々木のオリンピック・パラリンピック選手村などのリネンサプライ、クリーニングを落札、業界を驚かせ幸先はよいと見えた。主な得意先は病院や高齢者施設。首都圏のほか伊豆半島(静岡県)の病院などまで足を伸ばしたこともある。だが、経営は苦しく、破綻して債権者管理に置かれた時期も。それでも歯をくいしばり、営業専門の別会社を立ち上げ、羽毛ふとん採用による基準寝具(レンタル)の高級化やテレビ通販への進出、当時昼しか動かない業界の発想を逆転、夜の注文集めに駆け回った。

 

 そのころの話。ある年の夏休み前、聖心女子学院(港区)の寮の門をくぐった。「洗濯ものを出してくれませんか。夜取りに来ますので」。間もなく連絡をもらい、玄関に受付台を置いた。なんと約2000点も。「料金を安くしたとはいえ、当時で400万円、4㌧トラック1台分。上等な服が多かった。うれしかったですね」。斎藤理事は昨日のことのように思い出す。

 

 深夜、店がはねるのを待って新宿のキャバレーにも。衣装の多くは女性たちの一張羅。仕上がり期限は翌日の夕方。「彼女たちも苦労していると感じました」(斎藤理事)。すぐ三恵中央センターへ取って返し、夜の作業スタートだ。

 

 こうした苦労は次第に実り、1970年代の右肩上がり経済にも支えられ、3億5000万円の借金を完済。1976(昭和51)年、念願の社会福祉法人に認可され、東京リハビリ協会(施設名を稲城リハビリに改称)の名で再スタートした。12年の歳月が流れていた。

 

 

目標は年収200万円

 

 努力の先にある夢、それは利用者の自立だ。訓練し、職を与え、所得保障をして自活。障害を機械化でカバーできるクリーニング、障害者の手を介さないリース業はうってつけ。戦前、孤児院や感化院で機械式「西洋洗濯部」を設け、受注したのと似ている。

 

 観賞魚リース事業を1991(平成3)年に始めたのも、価格競争に巻き込まれまいとする斎藤理事の知恵だった。熱帯魚を米国や東南アジアから仕入れ、水槽ごとレンタル。利用者は魚を世話し、メンテナンスに病院、介護施設、保育園などレンタル先を歩く。いま1400台に広がっている。

 

立川事業所の水槽

立川事業所の水槽

 

 転機は1992年に迎えた。この年、立川市提供の現在地に「立川リハビリ」(身体障害者40人)と、「ワークステーション立川」の両通所施設を開設。その5年後、老朽化した稲城リハビリ閉鎖に伴い、東京都日の出町に23億円を投じ、「日の出リハビリ」(身体障害者55人)、「ワークスタディ日の出」(知的障害者50人)の両通所施設、それに福祉ホーム(14人)と現状の体制を整えた。機械の近代化・大型化などに沿った流れであった。

 

 利用者の工賃(月額)を就労継続支援B型事業で比べてみよう。2013年度、都内673事業所平均で1万4587円。日の出リハビリは5万9018円(4位)、ワークステーション立川は4万7295円(10位)。利用者の障害重度化、重複化で思うようにならないものの、「それでも安い。障害基礎年金(1人100万円前後)を含め年間200万円は欲しい」と自身も小児マヒで車いすに乗る斎藤理事はいう。仕事を探し、協会へつなげる株式会社サポートジャパン(新宿区)の取締役だ。

 

 そして日の出事業所開設にはもう一つの挑戦があった。わが国初の脱施設化(寮の廃止)である。

 (横田一)

 

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