フランスの移民支援施設
江口隆裕・筑波大学大学院教授

2013年0211 福祉新聞編集部
    • このエントリーをはてなブックマークに追加

 人口減少期に突入した日本社会のあり方を考える参考になればと、昨年度から、移民先進国であるフランスと、移民の送り出し国であるマグレブ諸国(アルジェリア、チュニジア、モロッコ)双方を対象に移民問題を調査している。

 

 その一環として、昨年の10月末、スイスとの国境に近いアルザス地方のミュルーズ(Mulhouse)という町で、「アレオス」という非営利団体が運営する移民支援施設を見学してきた。

 

 この地方では、かつて鉱業や繊維産業が盛んであり、労働力不足を補うため、特に戦後間もないころから1970年代にかけ、マグレブ諸国から多くの移民労働者を受け入れてきたという歴史がある。そして彼らの貢献もあって、フランスは〝栄光の30年〟と呼ばれる戦後の経済繁栄を謳歌することになる。

 

 他方、移民労働者として働きに来た者にとっても、フランスでは母国よりもはるかに高い賃金を得ることができ、それを母国の家族に仕送りすれば、家族は家を建て、豊かな生活を送ることができる。そういった家族への思いに支えられて必死に働き続け、やがて60歳を過ぎても母国に帰ることなく、フランスにとどまっている者が多くこの施設に入居していた。

 

 もちろん、フランスで働いた後に母国に帰国した者もいるし、フランスに残ってはいるものの、年に1回程度は母国に帰国する者もいる。いずれにせよ彼らに共通しているのは、母国の家族のためにフランスに働きに来たという点である。

 

 さて、見学した施設の中には、築50年以上たっているため、解体途中のものもあった。老朽化した施設は、原則として二人部屋で、バス、トイレ、台所は共有というかなり劣悪なものであった。このため、現在、バス、トイレ、台所付きの個室を基本とする施設に建て替えているのだと言う。

 

 ところが、移民労働者の中には、個室に移ることを望まない者もいるという。なぜなら、個室の方が二人部屋よりも家賃が高く、その分母国への仕送り額が減ってしまうからだ。このため、施設側は、住宅手当などをうまく組み合わせて、できるだけ家賃が高くならないように工夫をしているが、それにもおのずと限界があるとのことであった。

 

 彼らは、二人部屋で自分のプライバシーを犠牲にしながら仕送りを続け、それでいて母国には帰ろうとしないのだ。国外で老いる彼らにとって、母国への帰国という想念は、しばしば〝死ぬために故郷に戻る、故郷に戻るために死ぬ〟ことを意味している。  (この調査は、科研費〈23530059〉の助成を受けている)

    • このエントリーをはてなブックマークに追加