愛の力こそ福祉の原点
荒川佐智子・大阪婦人ホーム理事長

2013年0429 福祉新聞編集部
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 現在の福祉事業は整備が進んだ社会制度に守られて、行政のセッティングの上に行うことが出来ている。福祉を自らの職業と定め(動機はおのおのあるだろうが)、福祉を学び、資格を取得して働く職員たちも、当然の権利として法で定められた基準の中(満足度はいろいろでも)、職業として、いわば守られ保障されている。

 

 大阪婦人ホームが始まった明治末期のころ、福祉は法律的にはまだ整備されていなかった。そこには林歌子の信仰に裏打ちされたキリストの愛と謙遜、弱き者、小さき者への慈悲の心、社会に対するある種の正義感からなる抵抗などから、身をていして「今」救いを必要としている人々に手を差し延べずにはいられなかったあの情熱、あの精神があった。

 

 同時代の、同じ思いに衝き動かされた人々の、情熱が集まり高まって大きな運動となり、社会を動かし、時代の歩みと共に、彼等が福祉の思想と実践を広げ、それが今日の制度へとつながれていったと言える。 厳しく混迷した現代社会の中、人生の迷路に迷い込み、生きる術を失い、気力をなくし、行き場のない人の心を癒すにはまず何が必要なのか。

 

 利用者さんの本当の痛み、悲しみ、苦しみの訴えを義務感からではなく、愛の優しさでたっぷりと聞いてあげることが出来ているだろうか。魂の叫びは、聞く者の心が愛で開いていなければそれは窓を鳴らす夜の嵐の音。 不安と恐ればかりが双方に広がる。

 

 泣く子を抱く母のような無条件の愛こそがその人の心をくつろがせる。責任感、義務感より、思いやりや親切な心が伝われば信頼感を得ることが出来るだろう。 神の召し出しにより福祉に全身全霊をささげた林歌子のくんでも尽きぬ豊かにあふれる愛、自らを無にして人に尽した美しき勇敢、愛による忍耐と犠牲。私は福祉の原点をそこに見る。

 

 入所者の心と体が癒え施設に対しての信頼を得て、さてそこからいよいよ支援に向けて我々の仕事が動き出す。本領が発揮される時が来る。

 

 現在、施設を訪れる人々の抱える事情もますます複雑化していく中、それに対応する職員たちに自らの資質向上のための努力を期待する。 また、百年を超える長い事業の継続から積み上げ、考え尽された支援のためのマニュアルや、年ごとにチェックされる運営の方針や計画が、活々と利用者さんに注がれる支援そのものであるために、それに血を通わせる職員たちの心の働き、愛のエネルギーを期待する。

 

 理念は目には見えない。しかし、目には見えない愛の力が安らぎと希望を与え、ついに支援へと導くことが出来ることを知る。 林歌子によって教えられたキリストの愛。人に与える愛の行為の大切さを、私の責任としてこれからも伝え続けていきたいと思っている。

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