社福法人が無人駅をパン工房に改修 鉄道ファンら土日には300人も(兵庫)

2017年0301 福祉新聞編集部
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きっぷ売り場を改修した場所で接客する八木さん(中央)

 兵庫県加西市の社会福祉法人ゆたか会(蓬莱和裕理事長)は、地域貢献事業の一環としてローカル線の無人駅の駅舎をパン工房に改修し、地元発祥の幻の酒米「野条穂」を使った米粉パンを製造・販売している。寂れていた無人駅は、米粉パンの人気などで多い日には300人近い人が訪れる人気スポットに変身。地域住民や鉄道客にとって大切な憩いの場・交流の場になっている。

 

 1991年に設立された同会は、同県内の障害者施設に勤めていた蓬莱理事長と、兄の正史・初代理事長が「自分たちが生まれ育った市にも障害者が安心して暮らせる入所施設がほしい」という思いから立ち上げた。現在は入所支援施設「希望の郷」や高齢者居宅介護事業所、障害児学童保育事業など7施設・16事業を運営。障害児から高齢者まで地域のニーズに応えた幅広い活動を展開している。

 

 そんな同会が、北条鉄道法華口駅に2012年11月に開設したのが駅舎工房「モン・ファボリ」だ。そこには「毎日通学で利用した駅の寂れた姿を何とかしたい」「地元発祥の野条穂を使い地域起こしをしたい」という地域貢献にかける蓬莱理事長の思いがあった。

 

 駅舎工房開設のために同会は、11年に米粉研究家の北垣美也子さんを招いてプロジェクトチームを立ち上げ、野条穂を使った米粉100%のパンの開発を開始。同時に北条鉄道(株)と協議を進め、駅舎の機能や風情を残しつつ、パン工房に改修する許可を得た。

 

 

待合室を回収したイートインスペース

待合室を回収したイートインスペース

 

 駅員室はオーブンなどを入れてパン製造場に、貨物受け取り場はパンを置く場所に、切符売り場は勘定やコーヒーなどの受け渡しをする場にそれぞれ改修。待合室の半分はイートインスペースとして活用することにした。

 

 北垣さん中心に進められた米粉パンのレシピも完成。悩みは実際にパンを焼き、職員に教えることのできる人の確保だったが、北垣さんが自ら志願。事業責任者として駅舎工房に加わることになった。

 

地産地消にこだわり

 

 駅舎工房では1日20種類の日替わりパンを約200個(土日は約500個)製造する。米粉ならではのモッチリした歯ごたえが評判だ。製造に際しては、希望の郷で生産する自然卵「さとらん」で作ったカスタードクリームや、地元農家が生産したニンジンで作ったあんを使うなど地産地消にこだわる。地元食材を使うことで、地域に役立ちたいという思いからだ。

 

 毎日のパン作りは朝6時から始まる。北垣さんら職員3人が一晩発酵させた生地を成型し、オーブンで焼き上げ、売り場に並べる。接客や勘定は、希望の郷の利用者で唯一の駅舎工房スタッフの八木晃さんが担当。地域の人から「やぎちん」と親しまれる八木さんは「大変だがやりがいがある」と話す。

 

 「オープン当初は『本当にこんな所にお店を開くの?』と地域の人から心配された」と振り返る北垣さん。北条鉄道から「ボランティア駅長」に任命され、1時間に上下各1本の電車を迎え、見えなくなるまで手を振り見送る姿は、米粉パンとともに鉄道ファンを中心に評判を呼び、いつしか土日には300人近い人が訪れるようになった。待合室には、地域の人が持ってきた花や鉄道のおもちゃが飾られ、駅舎内は地域の人や鉄道客らの笑顔と話し声であふれるようになった。

 

電車が来るたび出迎え、見送る北垣さん(右)

電車が来るたび出迎え、見送る北垣さん(右)

 

 ただ、「売り上げは月約80万円で人件費を除けば赤字。何とかトントンにしたい」(北垣さん)、「パンが売り切れる時もある。別の工房があれば生産量も増え、働ける障害者も増える」(八木大策・希望の郷事務課長)などまだ課題があるという。沿線に名所名跡などがない無人駅を人気スポットにし、地域住民の憩いの場、鉄道客の交流の場として再生させたゆたか会の地域貢献事業がとどまることはないようだ。

 

 

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