<寝屋川市監禁死事件> 地域共生社会の視点から考える

2018年0219 福祉新聞編集部
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茶色い塀で囲われた愛里さんの自宅。通りかかる人は「まさか人が住んでいるとは思わなかった」と口をそろえる

 大阪府寝屋川市で柿元愛里さん(33)が両親に監禁され死亡する事件が昨年12月に発覚してから2カ月が経過した。「精神疾患の療養のため」と供述した両親は監禁などの罪で起訴され、同市は再発を防ぐため異変情報を集約して対処することを宣言した。精神疾患の療養を理由とした監禁は、セーフティーネット(安全網)の強化によって防げるか。政府が地域住民のつながりや助け合いによる「地域共生社会」を提唱する中、安全網の意味を探ってみた。

 

 「今なら起こりえない事件だ」。寝屋川市こどもを守る課の稲留京子課長は唇をかむ。同市が児童虐待の早期発見・対応を図る「要保護児童対策地域協議会」(要対協)を設置したのは2006年12月。愛里さんが成人した後だ。

 

 要対協が教育委員会から相談を受けて対応する件数は、16年度は150件超(前年度からの継続分を含む)。ケースによっては、子ども本人の安否確認のため同課職員らが家庭を訪ねる。

 

 一般からの虐待相談件数1388件(16年度)は府内で上位に入る。市内ではこの10年だけでも家庭内虐待による幼児死亡事件が2件あった。稲留課長は「虐待防止に対する市民の意識が年々高くなっているので通報も多い」と話す。

 

 では、登校が途絶えていた愛里さんの小中学校時代はどうだったか。市教委は当時の複数の教員に聞き取りを実施。「教員らは愛里さん宅を訪問したが、いつ本人に会えたかという記憶は定かでないとのことだった」(教育指導課)という。

 

 「虐待を疑うという意識が今ほどではなかった」――。複数の市職員は言いにくそうにこう漏らす。事件を重くみた市教委は再発防止のため、18年度から小学1年生、中学1年生のいる全家庭に、夏休み中、学習支援などに携わる職員を訪問させる方針だ。

 

 また、市は1月23日、「キャッチ! SOS」と題する宣言を発表。市の職員が業務の中で異変を感じたら市危機管理室に報告し、状況によって警察などに通報するという。

 

 具体的には、ごみ収集業務、税金の訪問徴収業務の中で「郵便物がたまっている」「同じ洗濯物が干されたままになっている」など気付いた場合を想定。「全職員によるまちの見守り」を掲げた。

 

 これらを評価する見方がある一方、疑問視する向きもある。

 

 「行政にそこまで求めたら職員がパンクする」。福祉に長く携わった元同市職員は首をかしげる。「業務上知り得た個人情報を他の部署に伝えるのはデリケートな問題だ。どんな情報を伝えていいか判断するのは難しい」。

 

 

   柿元愛里さん監禁死事件の年譜

 

 

 「私の親と同じだと思いました」。同市内に暮らす統合失調症のリエさん(仮名・40代)はこう話す。「親は私の病気を認めず、妹の結婚に支障があるとして周囲に隠しました」。

 

 リエさんは愛里さん一家と面識があったわけではないが、報道された愛里さんの両親の行動は似ているという。愛里さんの自宅は交通量の多い幹線道路沿いにあり、両親は監視カメラで外を警戒。愛里さんを人目から遠ざけようとしていた。

 

 「愛里さんが精神科病院に通院した記録はあるが、継続して治療したり福祉制度を使おうとしたりした形跡はない。愛里さんが暴れたとの供述もあるが、具体的な事実は確認できていない」と府警の捜査関係者は話す。

 

 リエさんは言う。「確かに、行政が異変をつかみ介入することで救われる人もいるでしょう。でも、精神疾患を隠そうと殻に閉じこもる人はますます追い込まれます」。

 

 「安全網」のありようを考えることは、どの自治体にも共通する今日的な課題だ。要対協、障害者自立支援協議会、地域ケア会議、子ども・子育て会議――。愛里さんが監禁されたこの10余年で、地域の実態を把握する会議が福祉の各法律で定められた。

 

 関係者が集まるこうした会議には、安全網としての役割もある。そして今年4月、住民活動により社会的孤立を含む「地域生活課題」を把握し、解決する体制づくりが社会福祉法の改正により市町村の努力義務となる。

 

 法改正の狙いは「安全網」の網の目を細かくすることだとも読めるが、それだけでは防げない問題もある。

 

 「安全網」の可能性と限界を見極めることが大切かもしれない。

 

 

市役所にはパンフレットがたくさん並ぶ

 

 【事件の概要】

 2017年12月23日、大阪府寝屋川市の柿元愛里さん(33)の死体遺棄容疑で父親の会社員泰孝(55)、母親の由加里(53)両容疑者が逮捕された。死因は低栄養などによる凍死。同18日に動かなくなった愛里さんに気付いた2人が23日、府警に自首した。2人は「長女には精神疾患があり、16か17歳から自宅の一室で療養していた。室内に2畳ほどのトイレ付きプレハブ小屋を設け、二重扉で施錠し、タンクからチューブを伸ばし水分を取らせるなどしていた」などと供述。遺体発見時、愛里さんは衣服をつけず、身長145センチ、体重は19キロだった。大阪地検は1月24日、2人を監禁(約11年)と保護責任者遺棄致死の罪で起訴した。

 

 

 

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