障害者ケアの記録に新方式を導入 意思決定を支える栃木の社福法人
2019年04月19日 福祉新聞編集部
障害者支援施設などを運営する社会福祉法人同愛会(菊地達美理事長・栃木県)は4月から、「生活支援記録法」と呼ばれる記録の取り方を始めた。利用者の生活のある場面に焦点を当て、主観情報、客観情報といった項目ごとに記述する。記録された経過から職員が「気付き」を得ることで、利用者の意思決定支援に生かす。
「もうダメ、ギブアップ」。3月中旬、同愛会の障害者支援施設「光輝舎」(益子町・菊地月香施設長)の利用者は、真岡市内でイチゴ狩りを楽しんだ。「たくさん食べ過ぎて、もう無理」と笑う女性。
お腹がいっぱいなのでいらない。でもおいしいからもう一つ食べたい。「本当はどっちか?」――。よくあるこんな場面も新しい記録方式の対象になるかもしれない。
「生活支援記録法」とは、何に着眼したか(F=フォーカス)、利用者がどんな言葉を発したか(S=主観的情報)といった項目ごとに記述するもの=表参照。生活の場面を再現しやすいのが特長だ。
入所定員50人の光輝舎は、約30人が身体障害と知的障害の重複する人だ。自分の思いをうまく伝えられない人もいる。
「この記録方法は、利用者の意思決定支援に生かせると思いました」と菊地施設長は狙いを話す。
これまでは出来事を時間の経過に沿って文章化する「叙述式」で記録してきた。介護・福祉分野では一般的で、俗に「ダラダラ書き」とも呼ばれる。
叙述式では職員がどうアセスメントしたかを省きがちだが、新方式では意識して書かざるを得ない。職員の介入の根拠と結果が明確になるため、後に業務分析することで気付きを得る機会も増える。
同愛会は、「職員のアセスメント力を上げたい」(菊地施設長)と考え、従来の叙述式も残しつつ、新方式を順次、法人内の他施設でも導入するという。
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生活支援記録法は医療・看護での記録方式を介護・福祉向けに改良したもの。国際医療福祉大大学院の小嶋章吾教授、埼玉県立大の嶌末しますえ憲子准教授が2011年度から文部科学省の研究助成を受けて開発し、普及にも努めてきた。
小嶋教授によると、新方式は主に介護事業所で多職種が情報共有する際の効率化が狙い。支援の経過を人に説明する際、記録をまとめ直す手間が省け、読む側の負担も叙述式に比べて小さい。
口コミでその効果が広まり、栃木、埼玉を中心に全国20都府県で約5000人が新方式を学ぶ研修を受講した。小嶋教授は「光輝舎のような障害福祉の施設での導入は先駆的だ」と評価する。
人手不足を背景に、介護現場では生産性の向上が政策課題となり、厚生労働省は今夏にも改革プランを示す予定。人工知能(AI)を活用したケアプランの作成なども話題に上ることが増えてきた。
政府の「未来投資会議」(議長=安倍晋三首相)に置かれた健康・医療・介護分野の会合に参画する高橋泰・国際医療福祉大大学院教授は「生活支援記録法の記述は介入した結果が分かりやすいので、AIも学習しやすい」と評価している。
生活支援記録法の詳細は専用サイト(http://seikatsu.care/)を参照。
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【ことば】 意思決定支援=誰にでも意思決定能力があるという前提に立ち、支援者がその人の理解しやすい方法で情報を提供し、その人が意思形成・意思表明しやすい環境を整えること。国連の障害者権利条約第12条第3項を踏まえ、障害者基本法など日本の国内法にも明記された。
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