引きこもり〈下〉「救済」から「生きる支援」へ 孤立解消に「伴走型支援」

2019年1101 福祉新聞編集部
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8歳の伸一さん(左)と6歳の二郎さん(写真提供=二郎さん)

 引きこもりの人への支援は「子ども・若者育成支援推進法」(2010年4月施行、内閣府所管)が法的な根拠です。09年度からは厚生労働省の予算事業として「ひきこもり地域支援センター」の設置が都道府県・政令市で進みました。いずれも30代までの若者が主な対象です。一方、引きこもりの人が中高年になると、健康面での不安も大きくなります。それに対し、国は今、「伴走型支援」を強化しようとしています。 

 

 「もっと早く彼と出会えていればなあ」。神奈川県横須賀市で生活困窮者の自立支援を担当する北見万幸さんは、そうつぶやく。

 

 今年1月、市内で独り人暮らしの無職、牧岡伸一さん(56)が自宅で亡くなっているのが見つかった。栄養失調による衰弱死。スナック菓子の空き袋などゴミが散乱していた。推定死亡日から約2週間後だった。

 

 「食生活が乱れてやせ細り、健康状態は悪かった」と北見さん。昨年11月に通報を受けて以来、何度も自宅に足を運んで入院を勧めたが、拒まれ続けた。

 

 職を転々として20代半ばから約30年間引きこもりとなった伸一さん。一緒に暮らしていた両親が他界してからの10年間は、実家で遺産を取り崩しながら暮らした。

 

伸一さんを心配する父の日記(1988年6月に書いたもの)

 

 保健所、地域包括支援センターは伸一さんの存在を把握はしていた。約6年前、精神科医は伸一さんを診断し、「強制入院させるほどではない」と判断。差し迫った問題はなく、それ以上かかわる根拠は乏しかった。

 

 

 健康状態が悪化しても本人が放置する「セルフネグレクト」(自己放任)は、中高年の引きこもりがこの先増えていった場合、これまで以上に切実な社会問題になることも予想される。

 

 しかし、強制的に治療させる行為は人権の制限にもなりかねない。どんな状態なら踏み切るか、という判断は難しい。だからといって見て見ぬふりもできない。

 

 そこで、いわば折衷案として浮上したのが「伴走型支援」だ。15年4月施行の「生活困窮者自立支援法」を設計する中で注目された。

 

 引きこもりをはじめとした「困りごと」の解消に固執せず、継続的にかかわる伴走者が本人と社会のつなぎ役になり、本人が新たな気づきを得ることで「困りごと」を小さくする、というアプローチだ。

 

 本人にとっての「良き隣人」が増えることを下支えする役回りであり、「生きる支援」とも言ってもいい。

 

 

 「伴走型」が浮上したのは、「社会的孤立」が「困りごと」をより深刻にする、という認識が広まったからだ。

 

 18年4月施行の改正社会福祉法も地域社会からの孤立を、解決すべき「地域生活課題」に位置付けた。

 

 市町村に対しては交流拠点をつくることや、住民同士の助け合いを含む「包括的な支援体制の構築」を努力義務とした。

 

 厚生労働省は、伴走型支援を促す市町村向けの交付金を設ける方針で、20年の通常国会に関連法案を提出する構えだ。

 

 

 伸一さんの弟で、実家から離れて暮らしていた二郎さん(55)は「兄は自己防衛的で、自分の内面に立ち入られるのを極端に嫌った」と人物像を語る。

 

 鉄道が大好きで散歩も好み、饒舌で見知らぬ人とも世間話をした。それでも身の振り方など深い話になると口を閉ざしたという。

 

 「学校でのいじめ、職場でのパワハラなど何か大きなきっかけがあったわけではない。小さな生きづらさの積み重ねとしか言いようがない」と振り返る。

 

 支援を拒んで衰弱した人を強制的に「救済」できるよう法整備することも、今後の議論としてはありえる。しかし、冒頭の北見さんは「現実的には難しいのではないか」とみる。

 

 強制した結果、一時的には問題が解決したように見えても、本人の気の持ちようは変わらない。結局は元の生活に戻ることが懸念されるからだ。

 

 「フードバンクなど具体的な武器とセットで出向くなどして粘り強く伴走するしかない。独り暮らしが珍しくない時代なのだから」。自分に言い聞かせるように語った。

 

(終わり)

 

 

家族支援の再構築を

 

長谷川俊雄・教授

 

 引きこもりが顕著に社会問題化した2000年ごろから、保健所での家族支援は本人支援へとシフトし始めた。保健所の機能が徐々に「高齢」「母子」といった事項別の縦割りになり、本人支援も薄らいだ。

 

 経済的にゆとりのある家庭は、民間の自立支援機関を頼ることもできるが、そうでない家庭は途方に暮れる。特に本人が家から一歩も出ないケースでは、家族を支えることが大切だ。

 

 しかし、国の政策は「家族前置主義」で、「家族は本人を指導改善させる立場」と捉えているように見える。家族支援には冷淡だ。

 

 今後は第一に家族も困りごとを抱えた存在と捉え、公的な家族支援を再構築すべきだ。

 

 第二に今後伴走型支援を進めるにあたっては、本人の速度に合ったものにしてほしい。支援の成果を測るならば、社会参加できたか否かではなく、本人の満足度で測るべきだ。

 

 第三に引きこもりの捉え方を再考すべきだ。私は自立を強要された末に孤立し、自死に至った若者を何人も見てきた。引きこもりを「社会的孤立」と捉えれば、孤立を解消することが支援の軸になる。生きることそのものを支える社会にしなくてはならない。

 

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はせがわ・としお
 白梅学園大教授。1956年生まれ。81年より横浜市の社会福祉職として寿生活館・福祉事務所・保健所に勤務。精神科クリニックで引きこもり家庭の相談を受け、2010年より現職。著書に『ひきこもる思春期』(星和書店)など。

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